TAM・SAM・SOMと予測PLの正しい関係性とは?
──新規事業の仮説設計と数字の整合を徹底する視点──

1. はじめに
新規事業を計画する上で必ず起きる議論、それが「その売上、どこから出てくるの?」です。 この問いに答えられずにPLだけが並んでいる計画は、仕事としての実行性や精度に問題が残ります。
そこで重要なのが、市場をTAM/SAM/SOMで分解し、実際に獲得しうる市場規模から売上を算出していく思考のフローです。 本コラムは、その基本を「初めて新規事業にとりくむ方」も理解できるように解説していきます。
2. TAM/SAM/SOMの基礎を理解する
TAM → SAM → SOMは、 「理論上はこんなに大きい市場がある」 「その中で、自社が実際にサービスを届けられる領域はここだ」 「その中で、実際に獲得可能な市場はここだ」 と、次第的に市場を縮小させながら、継承関係をつけて理解するための思考フレームです。

特に予測PLを作成する際には、TAMやSAMをどんなに大きく計算しても、「SOMが現実的な視点で計算されているか」が問われます。
以下では、そのTAM/SAM/SOMの分析解説と、SOMを基に作成する予測PLのつくり方について解説していきます。
3. SOMから考える予測PLの基本構造
予測PLにおいて最も重要なのは、売上の根拠です。

売上高は以下の式で導き出されます。
売上高 = SOM × 獲得率 × 単価
この式に具体的な前提を与えることで、説得力のある計画となります。たとえば、以下のような構造が整っていると、整合性のあるPLとして信頼を得られやすくなります。
- SOM(対象顧客数):例)初年度に営業可能な企業300社
- 獲得率(成約率):例)20%
- 単価(1契約あたりの年間収益):例)20万円
→ 300社 × 20% × 20万円 = 1,200万円(初年度売上)
この計算が予測PLと一致していない、または仮定が不明確である場合、「なんとなく作られたPL」だと判断されてしまうのです。
4. SOMは“何年目”かを明記する
SOMを設定する際、忘れてはならないのが「そのSOMは何年目を想定しているのか?」という視点です。
- 1年目のSOM:初年度PLと直結し、営業・人員・広告体制の設計に影響
- 3年目のSOM:中期成長戦略や投資回収のシナリオ設計に影響
もし明記されていなければ、PLの売上成長カーブとの整合が取れなくなります。
したがって、予測PLの各年次とSOMの前提が結びついているかを確認しながら、年次ごとのSOMを見直すことが重要です。
5. ToC型/ToB型による具体事例の理解
市場規模をどう切り出すかによって、TAM・SAM・SOMの設計も変わります。 特に有効な2つの視点が、ToC(Top of Category)とToB(Top of Behavior)です。
● ToC型:カテゴリから出発
カテゴリ全体(例:製造業全体、中小企業全体)を起点に市場を構造化します。
<例:中小企業向け福利厚生アプリ>
- TAM:全国中小企業400万社 × 月1万円 × 12ヶ月 = 4,800億円
- SAM:従業員100名以上の企業10万社 → 年間1,200億円
- SOM:リーチ可能な2,000社 → 成約率20% → 400社 × 年12万円 = 4,800万円
● ToB型:行動から出発
すでに特定の行動をしている企業群を起点とする(例:リモートワーク実施企業、1on1面談を定期実施している企業など)
<例:1on1支援SaaS>
- TAM:人事系SaaS市場 3,000億円
- SAM:1on1文化が定着している企業1万社 → 単価10万円 = 100億円
- SOM:リーチ可能500社 → 成約50社 × 年20万円 = 1,000万円
ToCは「市場の広がり」を、ToBは「すぐにアプローチできる層」を示します。両者を組み合わせることで、より現実性と成長性を両立した市場設計が可能になります。
6. 仮説→実行→見直しのサイクルを前提とする
新規事業におけるSOMやPLの初期設定は、あくまで仮説です。 その仮説が正しかったかどうかは、実行によってしか検証できません。
- 顧客インタビューを経て、想定していたターゲットがずれていたと気づく
- 想定していた獲得単価よりコストが高かった
- 訴求が刺さらず、成約率が下がった
こうした事実を踏まえて、SOM・PLを何度でも見直すことが、成功の近道です。「仮説 → 実行 → 学習 → 修正」の繰り返しが、新規事業を本当に事業へと育てていきます。

7. まとめ
- TAM・SAM・SOMは市場構造を理解するための分解思考
- 売上は「取れる市場 × 成約率 × 単価」で決まる
- PLはSOMと整合している必要がある
- SOMは年次を明記し、成長曲線と連動させる
- ToC/ToBを併用し、広がりと足元の両面を持つ市場設計を行う
- 仮説に固執せず、何度でも見直していく柔軟性を持つ
「現実的な市場規模」と「実行可能な売上計画」が結びついたとき、新規事業の構想は“語れる夢”から“実現できる計画”へと変わります。