
アイデアを広げる作業は、担当者の経験や勘に左右されやすいものです。同じテーマを与えても、出てくる案の数と幅は人によって大きく変わります。個人の力量に依存するほど、組織としての再現性は失われていきます。
この揺らぎを抑える方法の一つが、思考に型を与えることです。マンダラートは、9つのマス目という単純な枠組みで発想を広げていく手法です。ただし、書き方を理解しないまま使うと、マス目を埋める作業そのものが目的化してしまいます。本記事では、マンダラートの書き方を、基本構造から手順、記入例、注意点までの流れで整理します。
マンダラートとは
マンダラートとは、3×3の9マスを使って発想を放射状に広げていく思考法です。中央に主題を置き、その周囲8マスに関連する要素を書き出していきます。デザイナーの今泉浩晃氏が考案したものとして一般に知られており、仏教の曼荼羅に着想を得た格子状の構造が名称の由来とされています。
この手法の利点は、思考の抜け漏れを構造的に減らせる点にあります。目の前に空白のマスがあると、人はそれを埋めようとします。その力が働くことで、普段の思考では素通りしていた視点にも意識が向かいます。
もう一つの利点が、思考を1枚の紙の上に配置できることです。頭の中にある発想が目に見える形になれば、そのまま議論の土台になります。個人の暗黙的な着眼点が、組織で共有できる材料へと変わっていきます。
9マスの基本構造
マンダラートの基本形は、3×3で構成された9つのマスです。中央の1マスに中心テーマを記し、残る8マスに関連要素を配置します。この構造は、中心と周囲という二つの層の関係で成り立っています。中心はテーマそのものを、周囲はそれを構成する切り口や連想を表します。
重要なのは、周囲の各マスが中心と明確な関連を持っていることです。関連の薄い言葉を並べても、そこから先の展開が続きません。この関連性の強さが、最終的な発想の質を左右します。
さらに展開する場合は、周囲の8マスをそれぞれ新しい9マスの中央に据え直します。全体は合計81マスへと広がり、この形式はマンダラチャートと呼ばれます。目的や検討したい深さに応じて、9マスと81マスを使い分けることになります。
マンダラートを使う目的
第一の目的は、発想の偏りを防ぐことです。頭の中だけで考えていると、思いつきやすい方向にどうしても寄ります。9マスという枠が、意識を強制的に外側へ向けさせる働きをします。
第二の目的は、抽象的な発想を具体的な行動へ落とし込むことです。81マスまで展開すると、当初は漠然としていた主題が、実際に着手できる粒度の項目に分解されます。構想と実行の距離を縮める作業だといえます。
第三の目的は、検討の過程を共有可能な形で残すことです。誰がどの切り口から考えたのかが1枚に収まるため、後から参加した人にも思考の経路が伝わります。思考の可視化そのものが成果物になるという点は、他の発想法にはない特徴です。
マンダラートの書き方の手順
書き方は、中心テーマの設定、周囲8マスの展開、さらなる深掘りという三つの段階で構成されます。この順序を丁寧に踏むことで、発想の広がりと深さを同時に確保できます。
中心テーマを設定する
最初にやることは、中心となるテーマを中央の1マスに書き込むことです。ここが曖昧なままだと、周囲8マスの展開も焦点を失います。たとえば「新規事業のアイデア」では広すぎ、「高齢者向けの新サービス」まで絞ると方向性が定まります。
テーマ設定では、扱う範囲の広さを意識することが欠かせません。範囲が広すぎると発想は拡散し、狭すぎると早々に行き詰まります。組織で取り組む課題の粒度に合わせて、中心の言葉を調整してください。この一語が、その後の作業全体の質を決めます。
周囲の8マスを展開する
次に、中心テーマから連想する要素を周囲の8マスに書き出します。この段階では質より量を優先し、途中で手を止めないことが肝心です。8マスすべてを埋めるという制約そのものが、思考を先へ押し進める力になります。
展開の際は、互いに異なる方向の切り口を意識すると幅が広がります。対象者、利用場面、技術、価格といったように、軸を変えながら考えていきます。似た発想の繰り返しを避けることで、視点の多様性を確保できます。すぐに埋まらない場合も、仮の言葉を置いてみる姿勢が有効です。
さらに深掘りする
最後の段階は、埋めた8マスを一つずつ掘り下げる作業です。各マスを新たな中心に置き、そこからまた8つの要素を展開していきます。この繰り返しによって、抽象的だった発想が具体的な施策へと変わります。
深掘りでは、すべてのマスを均等に扱う必要はありません。有望なマスを見極め、そこに絞って展開するほうが現実的です。組織の資源には限りがあるため、どこを深く掘るかという判断が常に伴います。広げたあとに、あえて選び取る姿勢が成果までの距離を縮めます。
記入例
理解を助けるために、中心テーマを「高齢者向けの新サービス」と置いた場合の9マスを示します。周囲の8マスは、対象者・場面・技術・提供形態といった異なる軸から埋めています。
| 移動の困りごと | 見守りと安否確認 | 食事と栄養 |
| 服薬の管理 | 高齢者向けの新サービス | 住まいの安全 |
| 家族との連絡 | 趣味と社会参加 | 手続きの代行 |
この8マスのうち、たとえば「見守りと安否確認」を次の9マスの中心に据え直します。そこから「センサー」「訪問」「通話」「家族への通知」「地域との連携」といった要素へ展開していけば、検討すべき論点が具体化していきます。
記入時のコツは、マスごとに軸をずらすことです。上の例では、課題の種類で8マスを埋めていますが、「利用者の年齢層」「支払う人は誰か」「提供チャネル」といった別の軸で埋め直すと、まったく違う景色が見えます。同じテーマで複数枚を作ることも、有効な使い方の一つです。
アイデア出しと目標設定での使い分け
マンダラートは、アイデアを広げる場面と、目標を分解する場面の両方で機能します。それぞれで意識すべき点が異なるため、分けて押さえておくと運用しやすくなります。
アイデア出しで使う場合は、個人作業と全体共有を組み合わせると効果的です。まず各自が自分の9マスを埋め、その後に内容を持ち寄ります。異なる中心テーマを設定しておくことが、視点の多様性につながります。埋めたマスはその場で評価せず、いったんすべて並べて眺めてから、実現性や新規性といった観点で絞り込みます。
目標設定に使う場合は、中心に達成したい目標を置き、周囲に必要な要素を配置します。目標を8つの構成要素に分解することで、進むべき道筋が具体化します。目標達成シートとして81マスまで展開する使い方は、大谷翔平選手が高校時代に用いた事例が広く知られています。
組織で目標設定に用いる際は、分解した8要素を担当者や指標に対応させると管理しやすくなります。あわせて、要素ごとに期限や達成基準を書き添えてください。数値で測れる形にするほど、進捗の確認は具体性を増します。
使うときの注意点
第一に、マスを埋めること自体を目的にしないことです。空欄がすべて埋まると作業が完了したように見えますが、そこからが本題です。書き出した要素をどう解釈し、何に着手するかを決める工程を経て、初めて成果につながります。
第二に、発想と評価の段階を明確に分けることです。アイデアを出す場で批判が入ると、参加者の発言は慎重になります。まず量を集め、その後に別の基準で絞り込む。この順序を守ることが、組織全体の発想力を保ちます。
第三に、埋まらないマスを失敗と捉えないことです。埋まらないという事実は、その切り口についての知見が不足していることを示す情報でもあります。空欄そのものが、次に調べるべき論点を教えてくれると考えれば、作業の意味は変わってきます。
第四に、作成したシートを記録として残し、更新していくことです。一度作って終わりにせず、検討が進むたびに書き足していけば、思考の履歴が組織に蓄積されます。手法を使い捨てにしない運用が、再現性を支えます。
よくある質問
手書きとツールのどちらで作るのがよいですか
目的によって使い分けるのが適切です。発想を広げる初期段階では、手書きのほうが思考の速度に合います。書きながら考えを進められるため、手が止まりにくいという利点があります。一方、内容を共有したり何度も修正したりする場面では、表計算ソフトやオンラインホワイトボードが向いています。まず手書きで広げ、固まってきた段階でデジタルに移して整理する流れが、実務では扱いやすいでしょう。
8マスがどうしても埋まりません
まず切り口を変えてみてください。対象者、利用場面、技術、価格など、別の軸で考え直すと展開が進むことがあります。それでも難しい場合は、中心テーマ自体が曖昧である可能性が高いといえます。テーマを一段具体的な言葉に絞り込むと、周囲の展開が動き出すことが多いものです。なお、無理に8マスすべてを埋めることを目的化する必要はありません。埋まらない領域があること自体が、検討すべき論点の在りかを示しています。
9マスと81マスはどう使い分けますか
検討したい深さに応じて選びます。全体像を素早く把握したい段階や、会議の冒頭で議論の口火を切りたい場面では、9マスで十分に機能します。一方、行動計画のレベルまで具体化したい場合は、81マスへ広げていきます。ただし81マスをすべて均等に埋める必要はなく、有望な数マスに絞って深掘りするほうが現実的です。目的を先に定めてから規模を選ぶと、作業に無駄が生じにくくなります。
まとめ
マンダラートの書き方は、中心テーマを絞り込み、8マスを異なる軸で展開し、有望なマスを深掘りするという三段階に集約されます。9マスという型が思考を外側へ押し出すため、個人の発想力に依存せずに検討の幅を確保できる点が、この手法の価値です。
実務で活かす要点は、埋めることを目的にしないことに尽きます。空欄が埋まった状態はスタート地点であり、そこから何を選び、誰が着手するかを決めて初めて成果につながります。同じテーマで軸を変えた複数枚を作り、記録として残していけば、型は組織の資産へと育っていきます。