
良い構想があっても、事業として形にならないケースは多く見られます。その背景にあるのは、ビジネスモデルをどう設計するか、そして社内の関係者をどう巻き込むかという2つの課題です。いずれも、個人の熱量ではなく構造の問題として捉える必要があります。
2026年8月6日、Venture Cafe TOKYOの「Thursday Gathering #392」に、All Bridge株式会社 代表取締役の水谷真人が登壇いたしました。テーマは「構想を、形にする ― ビジネスモデル設計と社内の巻き込み」。社内起業を扱う全3回シリーズの第2回として、CIC Tokyo(虎ノ門ヒルズビジネスタワー15F)とオンラインのハイブリッド形式で開催しました。本記事では、当日お伝えした内容の要点を整理してご紹介します。
開催概要
- イベント:Venture Cafe TOKYO / Thursday Gathering #392
- セッション:構想を、形にする ― ビジネスモデル設計と社内の巻き込み|社内新規事業への挑戦(第2回/全3回)
- 日時:2026年8月6日(木)17:00〜18:00
- 会場:CIC Tokyo(東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー 15F)/オンライン併催
- 登壇:All Bridge株式会社 代表取締役 水谷 真人

第1回の振り返り|アイデアは「組み合わせ」から
本回は、第1回で扱った「アイデアの出し方」の振り返りから始めました。社内新規事業とは、既にある会社の中で立ち上げる新しいビジネスです。ゼロから会社を立ち上げる起業とは異なり、既存の資源を使えることが最大の違いになります。
あわせて、アイデアの定義も再確認しました。アイデアとは「既存の要素の新しい組み合わせ」です。ゼロから生まれるものではなく、知識や経験を掛け合わせて生み出されます。そして、どの起点から着想する場合でも、顧客課題の理解が欠かせません。第1回で見つけた「不」と解決策の種を、第2回では事業の設計図へと進めていきます。
本日のゴール|自分のビジネスモデルを明確にする
第2回のゴールは、自分のアイデアをビジネスモデルとして明確にすることに置きました。第1回と同じく、聞いて理解するのではなく、手を動かして言語化していただく設計です。参加者の皆さまにはPCをご持参いただき、その場でご自身の構想を1枚に整理していただきました。
探索活動は正解が存在しない中で進みます。だからこそ、否定しないこと、「自分たちはできる」と信じること、楽しみながら挑戦することという、前回と共通のグランドルールを土台に置きました。場の前提を先に設計しておくことが、質の高い議論につながります。
ビジネスモデルとは、事業の「設計図」である
ビジネスモデルを構築する前に、まずビジネスモデルとは何かを整理しました。ビジネスモデルとは、事業の設計図です。顧客価値の創出から収益の獲得までの流れを示し、「誰に・何を・どう届け・どう儲けるか」を一つの全体構造として整理したものになります。
なぜ、その設計図が必要なのか。理由は3つに整理できます。第一に、顧客理解の深化です。顧客が本質的に何を求めているかが明確になります。第二に、社内共通言語の形成です。営業・開発・経営が同じ価値観で動けるようになり、部門を超えた一貫したメッセージが生まれます。第三に、差別化戦略の明確化です。どこで勝てるのか、どこでは勝てないのかを見える化でき、リソース配分の最適化につながります。

ビジネスモデルキャンバス|「顧客」から考える
設計図を描く道具として用いたのが、ビジネスモデルキャンバスです。事業の構造を1枚の図に整理するフレームワークで、9つの要素を可視化することで全体像を明確にできます。
当日は、話題のchocoZAPを題材にした事例で全体像をつかんだうえで、ご自身の事業に落とし込んでいただきました。重要なのは、どこから考えるかです。ビジネスモデルキャンバスでは「顧客」から考えます。誰のためのサービスなのかを最初に定義し、そこから提供価値、顧客との関係、チャネル、収益の流れ、主要活動、リソース、パートナー、コスト構造へと、順を追って埋めていきます。埋めること自体が目的ではありません。9つを関連づけて、事業の全体構造を一貫した形で捉えることが目的です。
競合分析と優位性|「だから私たちがやる意味がある」
ビジネスモデルを描いたら、次は競合分析です。ここでは競合を、自分たちと同じ課題を別の方法で解決しようとしている相手と定義しました。同じサービスを提供する会社だけが競合ではありません。顧客にとって「代わりになる選択肢」は、すべて競合になり得ます。
chocoZAPを例にとれば、他の24時間ジムだけでなく、自宅トレーニング、公営ジム、フィットネスアプリ、さらには「何もしない」という選択肢までが競合に含まれます。直接・間接・代替という3つの層で捉えることで、顧客が本当に比較している対象が見えてきます。
競合分析の目的は、勝ち筋を見つけることにあります。他社と違う強みが明確になり、顧客が本当に困っているニーズが浮き彫りになり、経営陣や意思決定者の疑問に先回りして答えられるようになります。競合分析とは、「だから私たちがやる意味がある」を証明するためのステップです。
ビジネスモデルを作った後は|フェーズで深さを変える
ビジネスモデルは、一度描いて終わりではありません。事業フェーズによって、どこまで描くべきかは異なります。基本は、初期は広く浅く、後期は狭く深くです。
アイデア期には、複数の仮説を立てて方向性を探ります。実現可能性よりも、可能性の幅を重視する段階です。検証期には、顧客の実在・課題の深刻さ・収益構造の成立性を確認します。事業化期には、体制・コスト構造・KPIを構造化し、数字の裏付けを持たせます。拡張期には、スケールモデルを設計します。段階に応じて求められる粒度を調整することが、構想を持続的に前へ進める鍵になります。
社内の巻き込み|ビジネスモデルから仲間を見つける
本回のもう一つの論点が、社内の関係者をどう巻き込むかです。ここでも起点になるのは、個人の熱量ではなくビジネスモデルです。
ビジネスモデルキャンバスを描くと、価値提供のために協力すべき仲間が構造として見えてきます。どのパートナーと組むべきか、どんな主要活動やリソースが必要か。それらを整理していくと、次に社内で誰を誘えばよいかが自然と明確になります。巻き込みを属人的なお願いにせず、事業の設計から必要な役割を導く。この順序が、一人で抱え込まずに組織の中で前へ進めるための考え方です。
次回に向けて
本セッションは、社内起業をテーマとした全3回シリーズの第2回です。各回は単体でも学びが得られる設計としており、本回からのご参加も歓迎しています。
- 第1回:アイデアの出し方(7月16日・開催済み)
- 第3回:ピッチの作り方(9月17日)
最終回となる第3回では、ここまで設計してきた構想を、社内で合意を得るための伝え方へと落とし込みます。意思決定者に届く構造で構想を言語化し、構想で終わらせない道筋をつくります。

新規事業を構想で終わらせないためには、アイデアを設計図に変え、その設計図から関係者を巻き込む一連の流れが必要です。今回のセッションが、社内での挑戦を次の一歩へ進めるきっかけになれば幸いです。