
担当者の皆さま
味の素株式会社 NBD.comの皆さま
「新規事業を、個人の経験から組織の仕組みへ」
新規事業は、個人の勢いや想いだけで生まれることも多い。しかしそれでは、その人が異動などで離れてしまえば、新規事業への取り組みも途絶えてしまう。誰かの熱意だけに依存するのではなく、組織として新規事業が続いていく仕組みをどうつくるか。
味の素株式会社 バイオ&ファインケミカル事業本部が推進する「NBD.com」では、その問いに向き合うため、社内新規事業の「プレイブック」をAll Bridgeとともに作り上げました。
各事業部を統括する視点から、その狙いと成果を、プロジェクトを推進する4名の皆さまに伺いました。
1. なぜ「プレイブックが必要」だったのか
この取り組みの出発点には、バイオ&ファインケミカル領域ならではの構造的な課題がありました。
食品事業のように毎年新製品を出せる世界とは異なり、この領域では新規事業の検討が長期的な取り組みになりやすく、新しい事業が頻繁に生まれるわけではありません。
取り組みを立ち上げた髙木様は、当時の問題意識をこう振り返ります。
新規事業にチャレンジしてほしい、というメッセージはありながらも、失敗の確率が高いがゆえに、その挑戦が評価では重視されにくい。だから、どうしても個人任せになってしまう。そうではなく、みんなが同じような知識を得られる場や仕組みがある中で新規事業をつくっていけたら、と思っていました。
多様なメンバーを集め、それぞれがテーマを持ち寄り、「新規事業を開発するチームなのだ」と社内に示していきました。そうした段階的な取り組みの末に生まれたのが、All Bridgeとともに作り上げたプレイブックでした。
その効果を、杉浦様はこう語ります。
プレイブックによって、取り組みを仕組み化することができます。これを運用することで、初めて取り組む人の「何をやればいいか分からない」という状態に対して、道筋を示せるようになります。また、すでに取り組んだ経験のある人の知見やノウハウを、後進の人たちにも伝えていくことができます。この仕組みを構築できたことが、とても大きな成果だと思っています。
2. プレイブックが、「説明のしやすさ」を変えた
完成したプレイブックは、まず「対外的な説明のしやすさ」を大きく変えました。
武井様も、その効果を実感しています。
『NBD.comは何をやっているの?』と聞かれた時に、『このプレイブックがあってね』と説明できる。何をやりたくて、何をどうやっているかが伝わるので、相手の理解が上がりました。相手側もそれが分かるから、プロジェクトに何を期待すればいいか、どんな話をすればいいかが見えやすくなり、お互いにコミュニケーションがしやすくなりました。
説明の負担が減っただけではありません。相手との「期待値のすり合わせ」がスムーズになったことで、対話そのものの質が変わっていきました。
3. 属人性から「継承性」へ
プレイブックがもたらしたもう一つの価値が、「継承性」でした。
これまで、その場の責任者や決裁者の判断に依存していた意思決定が、プレイブックを参照することで、誰でも一貫した基準で判断できるようになったのです。
髙木様は言います。
責任者がその場で考え・決裁するのではなく、プレイブックを参照して判断できるようになった、マネジメントする側としても、すごくやりやすくなったという声が出ています。属人的な判断に頼らずに済むので、継承性ができたと思います。
導入した人が何をすればいいか分からない。そんな状態を、プレイブックは解消しました。
道筋が示されていることで、先に取り組んだメンバーが後進へと知見を伝えていける。個人の中に閉じていた経験が、組織の資産として受け継がれていく構造が生まれました。
4. 「捨てがたい一枚」― 場面で使い分けるプレイブック
プレイブックは、単一の説明資料ではありませんでした。相手や場面に応じて使い分けられる、複数のスライド群として機能しています。
杉浦様は、その価値をこう語ります。
評価基準などをまとめているプレイブックは、どのコンテンツも捨てがたく、貴重なスライド群になっています。相手や場面に応じて、NBD.comのミッションを伝えるスライドが有用な場合もあれば、ステージゲートの仕組みを伝えた方がいい場合もあります。その時々の目的や状況ごとに、活用すべき一枚が変わり、それぞれに明確な役割があると感じています。
ミッションや全体像は組織や上位層への活動紹介に、ステージゲートは進捗報告や意思決定の基準共有に。一つに選べないほど多様な使い道があるからこそ、必要な場面で必要な一枚を取り出し、話の軸に据えることができます。
必要な場面に一つのスライドを持ってきて、それをベースに話ができる。非常に有意義で、活用のしがいがあるプレイブックになっていると思います。
5. 共通フォーマットが、コミュニケーションを加速させた
プレイブックとあわせて整備されたのが、ピッチ資料フォーマットでした。
この統一された型は、これまで見えづらかったものを可視化する効果も持っていました。担当者やチームがそれぞれに積み重ねてきた努力が、共通のフォーマットに載ることで、はっきりと形になって伝わるようになったのです。
開発グループを統括する広瀬様は、その価値をこう振り返ります。
ピッチブックでフォーマットまで落とし込んでいただいたのが、すごく良かった。こういう項目を10枚で、という型があると、『こうすればいい』『これがなきゃいけないんだな』というのが、やる時から分かる。
もちろん、新しい型が定着するまでには時間もかかります。それでも広瀬様は、この型が組織に浸透していく手応えを感じています。
聞いている時はまだ慣れていない感じもあって、『なんでこの順番なの?』と言われることもありました。ただ、だんだん浸透していく中で、受け取る方も受け取りやすくなっていきました。
フォーマットの統一は、テーマを横断した比較やレビューも容易にしました。ピッチ資料をベースに、各事業部とのコミュニケーションも、上司と部下のコミュニケーションも進んでいく。
プロジェクトが何を目指しているのかが分かりやすく伝わることで、対話が発展的に広がっていきました。
6. 「横の関係」で進むチームを支える土台に
プレイブックは、資料や判断基準であると同時に、チームの関わり方そのものを支える土台にもなっていました。
髙木様は、このプレイブックを毎年度の個人目標にも重ねながら、目指すチームの姿をこう語ります。
このプレイブックを見て、上下関係というより、サーバントリーダー的に、みんなが横の関係で助け合い・真剣に取り組む環境を作りたいと思いました。実際、みんながスムーズに動いてくれて、とても良かったです。
指示を上から流すのではなく、それぞれが横並びで主体的に動く。プレイブックという共通の拠りどころがあるからこそ、役職や立場を超えて「同じものを見ながら進む」関係が成り立ちます。共通の型は、チームのフラットな関係性を支える基盤にもなっていました。
7. NBD.com が「ハブ」となり、全社をつなぐ
プレイブックによって整った土台は、統括部という組織そのものの役割も変えていきました。経営層と、研究所や各事業部との間に立つ統括部が、両者をつなぐ「ハブ」として機能し始めたのです。
広瀬様は、その変化をこう語ります。
組織的に我々は統括部なので、上には経営層がいて、横には研究所や各事業部の方々がいる。全社戦略と整合を取りながら、個々の事業や研究所の人がやりたいことも拾える。その状態が一番いいと思っています。プレイブックを作らせていただいたことで、上にも横にも説明がしやすくなり、頼ってもらえるようになりました。
現場の課題感も進捗も統括部が抽出して経営層に伝え、経営層の方針を個別具体にまでブレイクダウンできるようになってきています。
経営から同じ言葉や熱量で、事業部や研究所にも伝えられる組織ができてきている。そこをうまくハブとなって、このNBD.comを回していけるようになるのが、最終的に目指すべき姿だと思っています。
8. 成長戦略と融合する新規事業へ
プレイブックによって土台が整い、NBD.comは次のステージへと視線を移しています。
新規事業が「出島」として本流と切り離されるのではなく、事業成長のエンジンそのものになっていく。テーマ選びの段階から「本流の成長につながるか」という視点が強まってきたことは、伴走してきたAll Bridgeの側から見ても、この取り組みが確かな進化を遂げている証でした。
その融合を、さらに前へ進めること。それが、この取り組みを立ち上げた髙木様が見据える次の課題です。
今はまだ、想いを持った人が動いている状態です。これを、会社全体の成長戦略にどうつなげていくか。会社としても事業ポートフォリオを検討し、変遷させていく中で、我々の想いや、これまで培ってきた仕組み・ノウハウをどう整合させていくか。それが次のバージョンだと思っています。すでに今年の目標にも入れて、皆さんと取り組んでいきたいです。
想いを持つメンバーが集まって動き出したこの取り組みを、いかに全社の成長戦略へと落とし込み、組織として続く仕組みにしていくか。
プレイブックという土台の上で、その挑戦は続いていきます。
全体まとめ
「個人の勢い」を「組織の仕組み」へと昇華させたいという皆さまの想いに、私たちも強く共感しながらプレイブックづくりに伴走しました。
大切にしたのは、きれいな資料をつくることではなく、現場が実際に使い、判断の拠りどころにできる「生きた道具」にすることです。
皆さまがそれを対外説明や意思決定、後進への継承、そして統括部としてのハブ機能にまで活かしてくださっていることが、何よりの手応えです。この土台が、NBD.comの新規事業を全社の成長戦略へとつなぐエンジンになるよう、引き続き伴走してまいります。
事務局メンバー