
新規事業が進まない理由は、担当者の能力不足ではありません。多くの場合、既存事業の進め方をそのまま新規事業にも当てはめていることが原因です。そして、その構造は現場で日々くり返し起きています。
2026年7月16日、Venture Cafe TOKYOの「Thursday Gathering #389」に、All Bridge株式会社 代表取締役の水谷真人が登壇いたしました。テーマは「社内新規事業のアイデアの出し方」。社内起業を扱う全3回シリーズの第1回として、CIC Tokyo(虎ノ門ヒルズビジネスタワー15F)とオンラインのハイブリッド形式で開催しました。本記事では、当日お伝えした内容の要点を整理してご紹介します。
開催概要
- イベント:Venture Cafe TOKYO / Thursday Gathering #389
- セッション:社内新規事業のアイデアの出し方|社内新規事業への挑戦(第1回/全3回)
- 日時:2026年7月16日(木)18:00〜19:00
- 会場:CIC Tokyo(東京都港区虎ノ門1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー 15F)/オンライン併催
- 登壇:All Bridge株式会社 代表取締役 水谷 真人

「聞いて終わり」にしないという設計
本セッションの特徴は、講義を聞いて理解する場ではないという点にあります。参加者の皆さまにはPCをご持参いただき、その場で手を動かしながら、ご自身の会社における事業の種を磨いていただきました。
理由は明確です。新規事業のアイデアは、知識として理解しても行動には変わらないためです。手順に沿って実際に言語化してみることで、はじめて「自分の会社でも進められる」という感覚が生まれます。個人の発想力ではなく、手順という仕組みが行動を変える。この考え方が、本シリーズ全体の土台になっています。
冒頭では、探索活動を進めるためのグランドルールも共有しました。否定しないこと、「自分たちはできる」と信じること、楽しみながら挑戦し続けること。正解が存在しない中で進む探索活動だからこそ、場の前提を先に設計しておくことが重要です。

本日お持ち帰りいただきたい3つの視点
当日のゴールは、3つの視点を手を動かしながら捉えていただくことに置きました。
第一に、新規事業は誰でも挑戦できるということです。特別な才能が前提条件ではありません。起点は、日々の業務と顧客接点の中にあります。挑戦は、限られた人だけのものではありません。
第二に、アイデアはセンスではなく「組み合わせ」だということです。ゼロから生み出す作業ではなく、既に知っている要素を掛け合わせる設計作業です。だからこそ、手順として再現できます。
第三に、自社の強みを組み合わせるという視点です。社内新規事業の優位性は、既存の資産と顧客接点を使える点にあります。他社が真似できない組み合わせを設計することが、勝ち筋になります。
社内新規事業を、構造として捉え直す
社内新規事業とは、既にある会社の中で立ち上げる新しいビジネスです。社員がアイデアを出し、会社の人・お金・技術といったリソースを使って事業として育てていく取り組みを指します。ゼロから会社を立ち上げる起業とは異なり、既にある会社の資源を使えることが最大の違いです。
重要なのは、既存事業と社内新規事業では進め方が異なるという点です。既存事業の進め方をそのまま適用してしまうと、新規事業は前に進みません。当日は、どの市場を攻めるのかという論点も扱いました。市場浸透・新市場開拓・新商品開発・多角化という整理の中で、社内の既存アセットを活かせる領域に注力していくことが、社内新規事業の現実的な出発点になります。

自社理解から始める|RPV理論
アイデアを考える前に、まず自社を理解する。これが本セッションの順序です。自社理解は、印象や感覚で語ると精度が上がりません。そこで用いたのがRPV理論です。
RPV理論は、自社の強みをResource(資源)、Process(プロセス)、Value(価値観)の3つに分けて捉える枠組みです。Resourceは、ブランドや技術、顧客基盤、社員スキルなど「何を持っているか」。Processは、意思決定の速さや開発ステップなど「どう動いているか」。Valueは、判断基準や企業文化など「何を大切にしているか」を指します。
当日のワークでは、この3つの視点で自社の強みを書き出していただきました。埋めることが目的ではありません。分けて捉えることが目的です。強みを分解して言語化することで、どんな資源が活かせるか、社内の共感を得やすいテーマは何かが見えてきます。
アイデアの正体|「既存要素の新しい組み合わせ」
そもそもアイデアとは何か。ここでは「既存の要素の新しい組み合わせ」と定義しました。まったくのゼロから生まれるものではなく、知識や経験を活かして生み出されるものです。

そのうえで、成功確率の高いアイデアは着想の起点から生まれることを共有しました。顧客課題、技術シーズ、自社資産、社会変化、規制変化、市場変化、個人の原体験、業界の不合理。どの起点から着想するかによって、その後の事業化の可能性は大きく変わります。そして、どの起点であっても「顧客課題の理解」は必要不可欠です。
さらに、単なるアイデアと「新規事業になるアイデア」の違いも整理しました。新規事業になるアイデアとは、「誰の(WHO)」「どのような課題を(PROBLEM)」「どのように解決し(SOLUTION)」「どう儲けるのか(MODEL)」という4つの問いに答えられるものです。この一文が具体的に埋まって、はじめて事業アイデアと呼べる状態になります。
課題は「不」から見つける
新規事業に必要不可欠な「課題」は、どうやって見つけるのか。ここでは、課題を「理想と現実のギャップ」として捉えました。ギャップは「不」として現れます。
いきなり課題を見つけるのは難しく、社内新規事業では特にそうです。しかし、実は身近なところに「不」は存在しています。当日は、不便・不満・不安・不信・不快・不足・不自由という7つの切り口から、日常業務や顧客接点に潜む「不」を書き出していただきました。
あわせて、良い課題の条件も共有しました。良い課題とは、顧客が時間やお金を使ってでも解決したいと感じているものです。単なる要望ではなく、行動変化を伴う「痛み」を含んでいます。行動・感情・構造の三方向から確認していくことで、取り組む価値のある課題かどうかを見極められます。
解決策からビジネスモデルへ
見つけた「不」に対しては、解決策を考えていきます。発想の補助線として、オズボーンのチェックリストも活用しました。転用・応用・変更・拡大・縮小・代用・再配置・逆転・結合という9つの視点から問いを立てることで、手詰まりになりがちな発想を広げられます。
セッションの最後には、「誰の」「どのような課題に対して」「どのように解決するのか」という形で、現時点でのアイデアを言語化していただきました。完成度は問いません。言語化されていることが重要です。今後はこのアイデアをビジネスモデルキャンバスへ落とし込み、事業としての設計へ進めていきます。
次回に向けて
本セッションは、社内起業をテーマとした全3回シリーズの第1回です。組織に所属しながら新規事業に取り組む難しさは、アイデアの有無だけにあるわけではありません。意思決定や評価、関係者の巻き込みといった構造的な課題が伴います。
- 第2回:ビジネスモデルとチームの巻き込み(8月6日)
- 第3回:ピッチの作り方(9月17日)
第2回では構想を事業として設計し、社内の関係者をどう巻き込むかという構造を扱います。第3回では、意思決定者に届く形で構想を言語化し、社内で合意を得るための伝え方を扱います。個人の熱量ではなく、仕組みで進める。この一貫した視点で、構想を形にするまでの道筋を通してお伝えしていきます。
新規事業を構想で終わらせないためには、アイデアの出し方だけでなく、意思決定の構造と評価の仕組みまで含めた設計が必要です。今回のセッションが、社内で新しい挑戦を始めるための最初の一歩になれば幸いです。