ペルソナの作り方は、手順さえ押さえれば決して難しくない。一方で、新規事業の現場では「まだ顧客がいない段階でどう作るのか」「作ったあと何に使うのか」でつまずきやすい。本記事では、BtoB・新規事業の目線から、情報収集から項目設計、仮説ペルソナの検証、事業計画への接続までを体系的に整理する。そのまま使えるシート項目も具体的に示す。
ペルソナとは|「作り方」の前に押さえる基本
ペルソナとは、自社が狙う見込み顧客を、実在する一人の人物像まで具体化したものを指す。年齢や役職といった属性だけでなく、抱える課題や情報収集の仕方まで描くことで、チーム全員が同じ顧客像を共有できるようになる。作り方の手順に入る前に、ターゲットとの違いと、新規事業で効く理由を押さえておきたい。
ペルソナとターゲットの違い
ターゲットとペルソナの最大の違いは「粒度」である。ターゲットが「製造業の事業企画部門」のような集団・属性のかたまりを指すのに対し、ペルソナはその中の一人を「45歳・事業企画課長・新規事業の立ち上げを任され社内承認に苦戦している」というレベルまで描き込む。
この粒度の差が、施策の精度を分ける。集団のままでは訴求メッセージが総花的になりがちだが、一人に絞ると「この人は何に困り、何を見て意思決定するか」が具体化し、コンテンツや営業トークの判断軸になる。なお、より広い属性の切り分けについてはセグメントの考え方と地続きであり、セグメントで市場を分けた先の一人を描くのがペルソナだと整理すると理解しやすい。
BtoB新規事業でペルソナが効く理由
BtoBはBtoCに比べて顧客像がイメージしにくい。購買に複数人が関与し、担当者・決裁者・利用部門で見ている論点が異なるからだ。ペルソナを設定しておくと、こうした関係者の違いを言語化でき、メンバー間の認識のずれを防げる。
新規事業ではこの効果がさらに大きい。既存事業のように積み上がった顧客データがないため、放置するとメンバーごとに想定顧客がバラバラになりやすい。ペルソナという共通の人物像を置くことで、議論の土台がそろい、検証すべき仮説も明確になる。
ペルソナの作り方|5つの手順
ペルソナの作り方は、大きく5つの手順に整理できる。情報を集め、分類し、項目を決めて書き出し、チームで検証する、という流れだ。手順を踏むことで、思い込みではなくデータに根ざした人物像をつくれる。ここでは各手順の要点を順に解説する。
手順1 情報を集める
最初に行うのは、想定顧客に関する情報の収集である。既存顧客がいれば商談履歴や受注データ、問い合わせ内容が一次情報になる。新規事業で顧客がまだいない場合は、近い領域の顧客や、想定業界の公開情報、現場担当者へのヒアリングから着手する。
情報源は定量と定性の両方をそろえたい。定量は業種・従業員規模・部門といった属性、定性は課題・業務の進め方・意思決定の癖などである。営業担当が持つ肌感覚は貴重な定性情報であり、ヒアリング項目を設計して引き出すとよい。
手順2 分類して共通項を抽出する
集めた情報は、そのままでは人物像にならない。似た属性・課題ごとにグルーピングし、ボリュームの大きい層や、自社が勝ちやすい層を見極める。ここで「どの層を主役にするか」の当たりがつく。
分類の軸は、業種や規模といった企業属性と、役割や課題といった担当者属性を分けて考えると整理しやすい。複数の軸でグルーピングし、共通して現れる特徴を抽出することが、確からしいペルソナの土台になる。
手順3 項目を決める
次に、ペルソナシートに記載する項目を決める。BtoBでは「個人(担当者)」と「組織(企業)」の2層で項目を設計するのが定石だ。個人は役職・課題・情報収集メディアなど、組織は業種・年商・従業員数などを置く。
項目は多ければよいわけではない。施策の判断に使う項目に絞ることが重要で、使わない情報まで埋めようとすると工数だけがかさむ。後述の項目例を参考に、自社の意思決定に効くものを選びたい。
手順4 具体的に書き出す
項目が決まったら、収集・分類した情報をもとに、一人の人物として具体的に書き出す。氏名や顔写真のイメージを添えると、チームが人物として記憶しやすくなる。重要なのは、属性の羅列で終わらせず「何に困り、どう動くか」のストーリーまで描くことだ。
たとえば「新規事業の立ち上げを任されたが、社内の承認プロセスで何度も差し戻されている」といった状況を書き込むと、提供すべき価値が具体化する。事実に基づく範囲で、行動と感情まで踏み込むのがコツである。
手順5 チームで検証・更新する
書き上げたペルソナは、必ずチームでレビューする。営業・マーケティング・開発など立場の違うメンバーから見て違和感がないかを確認し、ずれがあれば修正する。一人の主観で作ったペルソナは、思い込みが混ざりやすいためだ。
さらに、ペルソナは作って終わりではない。事業や市場は変化するため、定期的に見直し、実際の顧客接点で得た情報を反映して更新する。生きた人物像であり続けてこそ、判断の拠り所になる。
ペルソナシートの項目例|個人と組織
ペルソナシートに何を書くかは、BtoBでは「個人」と「組織」の2層で考えると過不足がない。ここではそのまま流用できる項目例を示す。自社の意思決定に効くものを選び、不要な項目は思い切って削るとよい。
個人(担当者)の項目
個人ペルソナでは、意思決定や情報行動に関わる項目を中心に置く。代表的な項目は次のとおりである。
– 氏名・年齢・性別(記憶のためのラベル)- 役職・所属部門・担当業務- 抱えている課題・達成したい目標- 情報収集メディア(業界誌、検索、SNS、展示会など)- 意思決定での役割(起案者か、決裁者か)
これらは「この人は何を見て、何を基準に動くか」を描くための項目だ。とくに課題と情報収集メディアは、コンテンツ設計や接点づくりに直結する。
組織(企業)の項目
組織ペルソナでは、企業としての属性と購買の文脈を押さえる。代表的な項目は次のとおりである。
– 業種・事業内容- 年商・従業員数・拠点- 組織体制(新規事業部門の有無など)- 既存の課題・経営テーマ- 想定される導入予算・決裁フロー
組織属性は、市場規模の根拠づけにも使える。業界統計や公的統計を参照し、対象となる企業数や規模感を確認しておくと、後の事業計画づくりが滑らかになる。
新規事業で外せない「課題・不」の項目
新規事業のペルソナで最も重要なのは、顧客が抱える「不」――不満・不便・不安――を具体的に書く項目である。製品起点ではなく、この「不」を起点に価値を設計するからだ。
「現状どうしていて、何が面倒で、なぜ既存手段では解決しないのか」を一文で言語化できると、提供価値の輪郭がはっきりする。属性だけのペルソナに留めず、この課題項目を必ず立てておきたい。
新規事業ならではの注意点と失敗
新規事業のペルソナづくりには、既存事業とは異なる難しさがある。顧客データが乏しく、つくった人物像が正しいかを確かめにくいからだ。ここでは、仮説ペルソナの考え方と、ありがちな失敗を整理する。
顧客がいない段階の「仮説ペルソナ」
新規事業では、最初のペルソナは「仮説」として作る。確かなデータがないなかでも、近い領域の知見やヒアリングをもとに、現時点で最も確からしい人物像を置く。重要なのは、これを確定情報ではなく検証対象として扱う姿勢である。
仮説ペルソナがあると、誰に話を聞きに行くべきかが定まり、検証の打ち手が具体化する。完璧を求めて作成を止めるより、粗くても仮説を立て、早く検証に回すほうが新規事業では前に進みやすい。
顧客インタビューで裏を取る
仮説ペルソナは、顧客インタビューで裏を取って初めて意味を持つ。想定した課題が本当に存在するか、優先順位は高いか、現状どう対処しているかを、対象に近い相手に直接聞く。ここで仮説が外れていれば、ペルソナを修正する。
インタビューは、聞きたい項目を事前に設計してから臨むと精度が上がる。ヒアリング項目をシート化しておけば、複数人に聞いた結果を比較でき、共通する「不」を見つけやすい。仮説と検証を往復することで、ペルソナは机上の空論から現実の顧客像へと近づく。
ありがちな失敗3つ
新規事業のペルソナで陥りやすい失敗は、次の3つに集約される。
– 願望で描く:自社に都合のよい顧客像を作ってしまい、検証で崩れる- 作って放置する:一度作ったきり更新せず、現実とずれていく- 細かくしすぎる:項目を増やし精緻に見せても、検証していなければ確度は上がらない
いずれも「データと検証に根ざしていない」ことが原因だ。仮説として作り、インタビューで確かめ、更新し続ける――この基本姿勢が失敗を防ぐ。
ペルソナを事業計画・社内承認につなげる
ペルソナは作ること自体が目的ではない。新規事業では、描いた人物像を事業計画や社内承認の議論へつなげてこそ価値が出る。最後に、その接続の仕方を整理する。
ペルソナから事業計画へ
ペルソナで顧客の「不」と規模感を言語化できると、事業計画の根拠が強くなる。誰のどんな課題を、どれくらいの市場に対して解決するのかが具体化し、提供価値・収益モデル・市場規模の見立てに一貫性が生まれる。
社内承認の場では、「なぜこの顧客なのか」を問われることが多い。ペルソナと、その背後にあるインタビューの事実があれば、感覚ではなく根拠で説明できる。事業計画書に落とす際も、ペルソナを起点に据えると論理が通りやすい。
チームの共通言語にする
ペルソナのもう一つの価値は、チームの共通言語になることだ。営業・マーケティング・開発が同じ人物像を見て議論すれば、施策の判断軸がそろい、手戻りが減る。「このペルソナならこの訴求」という会話が成立するようになる。
人が入れ替わる場面でも、ペルソナが言語化されていれば顧客理解を引き継げる。新規事業のように不確実性が高いほど、共通の拠り所としてのペルソナが効いてくる。
よくある質問
ペルソナとターゲットの違いは何ですか?
粒度が異なる。ターゲットは「製造業の事業企画部門」のように属性のかたまりを指すのに対し、ペルソナはその中の一人を、課題や行動まで含めて具体的に描いたものである。ターゲットで市場の範囲を定め、その中の代表的な一人をペルソナとして描く、という関係で捉えると整理しやすい。施策の精度を上げたいときほど、一人まで具体化する意味が大きくなる。
新規事業で顧客がいなくてもペルソナは作れますか?
作れる。むしろ新規事業では、最初に「仮説ペルソナ」を立てることが検証の出発点になる。近い領域の知見や現場ヒアリングをもとに、現時点で最も確からしい人物像を置き、顧客インタビューで裏を取りながら更新していく。確定情報ではなく検証対象として扱うのが前提であり、粗くても早く立てて検証に回すほうが前進しやすい。
ペルソナは何人くらい作ればよいですか?
主要なものを1〜3人で始めるのが現実的である。BtoBでは担当者と決裁者で見る論点が違うため、必要に応じて複数を用意する。ただし数を増やしすぎると運用しきれず、かえって判断がぶれる。まずは最も重要な一人を厚く描き、検証を通じて必要なら増やす、という進め方が無理がない。
まとめ
ペルソナの作り方は、情報収集・分類・項目設計・具体化・検証という5つの手順に整理できる。BtoB・新規事業では「個人」と「組織」の2層で項目を設計し、顧客の「不」を中心に描くことが要となる。とりわけ新規事業では、最初のペルソナを仮説として立て、顧客インタビューで裏を取り、事業計画や社内承認へつなげる流れが重要だ。完璧さより、データと検証に根ざして更新し続ける姿勢が成果を分ける。