新規事業の計画を説明すると、ほぼ必ず「その売上は、どこから出てくるのですか」と問われます。この問いに答えるための道具がTAM・SAM・SOMです。本記事では、3つの意味と違い、トップダウン・ボトムアップでの計算方法、計算例、そして算出した市場規模を予測PL(損益計画)と矛盾なくつなぐ方法までを、社内で新規事業を進める方の視点で整理します。

TAM SAM SOMとは?3つの市場規模の意味
TAM・SAM・SOMとは、事業がねらう市場の大きさを「理論上の最大」「自社が届けられる範囲」「現実に獲得できる範囲」の3段階に分けて示す考え方です。1つの数字で市場を語らず、段階的に絞り込むことで、事業の伸びしろと計画の現実性を同時に説明できます。
TAM・SAM・SOMの定義と読み方
TAM(Total Addressable Market、タム)は、その製品・サービスが理論上ねらえる最大の市場規模です。対象となる顧客がすべて自社を選んだと仮定した場合の年間売上、と考えると捉えやすくなります。
SAM(Serviceable Available Market、サム)は、TAMのうち、自社の製品・提供地域・販売チャネルで実際に届けられる範囲の市場規模です。Serviceable Addressable Marketと表記する資料もありますが、指す内容は同じです。SOM(Serviceable Obtainable Market、ソム)は、SAMのうち、競合の状況や自社の営業力を踏まえて現実に獲得できると見込む市場規模で、売上目標に最も近い数字です。
3つの違いを一覧で比較
3つの違いは、「誰を含めるか」という絞り込みの条件にあります。TAMからSOMへ進むほど、自社の実力や制約を反映した条件が加わり、数字は小さく、根拠はより具体的になります。
| 指標 | 意味 | 答える問い | 主な算出方法 |
|---|---|---|---|
| TAM | 理論上の最大市場 | この事業にどれだけの伸びしろがあるか | トップダウン分析 |
| SAM | 自社が届けられる市場 | 今の製品と販路で、どこまで届くか | トップダウン・ボトムアップの併用 |
| SOM | 現実に獲得できる市場 | 数年以内に、いくら売れるか | ボトムアップ分析 |

上の図は、健康アプリを例にした架空の試算です。TAMは成人1億人が月額1,000円を払う場合の年間1.2兆円、SAMはスマートフォンを使う中高年層3,000万人に絞った年間3,600億円、SOMは初年度に接点を持てる30万人のうち5%が契約する場合の1.5億円としています。
なぜ3段階に分けて考えるのか
市場規模を1つの数字だけで示すと、「大きいが実現できるか分からない」か「堅実だが小さすぎる」のどちらかに見えがちです。3段階に分けると、TAMで事業の将来性を、SOMで足元の現実性を示せるため、聞き手は伸びしろと初年度の手応えを同時に判断できます。
また、市場規模を算出する前に「最初の顧客は誰か」を具体的に描いておくことも欠かせません。最も切実に課題を抱える顧客像が定まっていれば、SOMの根拠が固まり、そこからSAM・TAMへと無理なく広げられます。狙う顧客の選び方は「ターゲティングの方法」で解説しています。
TAM SAM SOMが使われる場面
TAM・SAM・SOMは、主に「その事業に投資する価値があるか」を判断する場面で使われます。新規事業の担当者にとっては、テーマを選ぶとき、社内の承認を得るとき、外部に説明するときの共通言語になります。
新規事業のテーマ選定と社内の投資判断
複数の事業案を比べる段階では、TAMとSAMで市場の魅力を、SOMで自社が取れる規模を見比べることで、テーマの優先順位をつけやすくなります。承認の段階では、SOMが売上計画の出発点となり、「なぜこの売上なのか」という決裁者の問いに答える根拠になります。
社内の投資委員会や稟議では、数字の大きさより、前提と出典が追えるかどうかが問われます。判断の基準の立て方は「新規事業の投資判断」を、稟議での示し方は「稟議書の書き方」をあわせてご覧ください。
投資家への説明と上場企業の開示
スタートアップの資金調達でも、TAM・SAM・SOMは事業の成長余地を示す定番の枠組みです。上場企業にも近い考え方が求められています。東京証券取引所は、グロース市場の上場会社に「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示を求めており、その記載事項に「市場規模」があります。
作成上の留意事項(2025年12月8日改訂版)では、ターゲットとする市場の内容と規模を、できる限り信憑性・客観性の高いデータで示し、出典を記載するよう求めています。独自に推計する場合は、用いたデータの出典や前提条件を詳しく書くこととされています。社内の資料でも、この水準を目安にすると説得力が増します。
TAM SAM SOMの計算方法
TAM・SAM・SOMの計算方法には、大きな市場から絞り込むトップダウン分析と、顧客数と単価から積み上げるボトムアップ分析の2つがあります。どちらか一方ではなく、両方で出した数字を突き合わせることで、前提の無理に気づけます。
トップダウン分析:統計から絞り込む
トップダウン分析は、公的統計や業界調査で示された市場全体の規模を出発点に、対象の業種・地域・企業規模などの比率を掛けて絞り込む方法です。主にTAMとSAMの算出に向いています。
注意したいのは、統計の「区分」と自社の想定市場が一致しないことが多い点です。調査ごとに対象の範囲や年次が異なるため、どの統計の、どの区分を、何年時点で使ったかを必ず記録しておきます。
ボトムアップ分析:顧客数×単価×頻度で積み上げる
ボトムアップ分析は、想定する顧客の数に、1回あたりの単価と年間の購入頻度(契約型なら年間単価)を掛けて積み上げる方法です。SAMやSOMの算出に向いており、自社の営業体制や価格設定に即した数字が出ます。
顧客の切り出し方には、業種や企業規模といった「カテゴリ」で切る方法と、「すでにリモートワークを導入している」「1on1面談を定期的に行っている」のように「行動」で切る方法があります。カテゴリで切ると市場の広がりが、行動で切るとすぐに接点を持てる層が見えます。
統計がないときはフェルミ推定で補う
新しい市場では、そのまま使える統計がないこともあります。その場合は、人口や企業数などの確かな数字から論理的に推計するフェルミ推定で補います。フェルミ推定は数字を推計するための手法であり、TAM・SAM・SOMは推計した数字を3段階に整理する枠組み、という関係です。
推計した数字は、顧客インタビューや小規模な販売の結果で、できるだけ早く確かめます。市場の情報の集め方は「市場調査のやり方」で詳しく紹介しています。
使える公的データと出典の書き方
国内の企業数や事業所数を知るには、総務省・経済産業省の「経済センサス‐活動調査」が基本になります。各種の政府統計は「e-Stat(政府統計の総合窓口)」から検索できます。
中小企業庁は同調査を再編加工し、中小企業・小規模事業者の数を公表しています。2021年6月時点の中小企業は336.5万者で、大企業を含む合計は337.5万者です。資料には「出典:中小企業庁(2023年12月公表、2021年6月時点)」のように、公表元・公表日・データの時点をそろえて書きます。
計算例:法人向け勤怠管理SaaSの場合(架空の例)
ここでは、法人向けの勤怠管理SaaS(インターネット経由で提供するソフトウェア)を例に、3段階を計算します。企業数は中小企業庁の公表値を使い、単価・対象の比率・成約率は説明のための架空の数字です。
3段階の計算
年間の利用料を1社あたり12万円と置きます。TAMは、国内の全企業337.5万者がすべて導入した場合として、337.5万者×12万円=約4,050億円です。
SAMは、今の機能と販路で対応できる「従業者20〜300人の製造業」に絞ります。仮にこの層を3万社とすると、3万社×12万円=36億円です。SOMは、3年目までに営業が接点を持てる3,000社のうち10%が契約すると見込み、300社×12万円=3,600万円となります。
| 段階 | 絞り込みの条件 | 計算 | 市場規模 |
|---|---|---|---|
| TAM | 国内の全企業 | 337.5万者×12万円 | 約4,050億円 |
| SAM | 従業者20〜300人の製造業(仮に3万社) | 3万社×12万円 | 36億円 |
| SOM | 3年目までに接点を持てる3,000社の10% | 300社×12万円 | 3,600万円 |
ボトムアップで突き合わせる
次に、営業体制から積み上げて確かめます。営業担当2名が1人あたり月20件の商談を行うと、年間の商談は480件です。成約率を20%とすると年約96社、3年で約288社となり、SOMの300社とおおむね一致します。
もし大きく食い違えば、成約率や接点の数など、どこかの前提に無理があるサインです。数字そのものよりも、各段階で「なぜその条件で絞ったのか」を言葉で説明できることが重要です。
SOMと予測PLをつなぐ
TAM・SAM・SOMは、算出して終わりではありません。新規事業の計画で最も問われるのは、SOMと予測PLの売上が矛盾なくつながっているかです。ここがつながっていないと、どれほど丁寧に市場規模を算出しても「なんとなく作られた計画」と受け取られます。
売上高=接点を持てる顧客数×獲得率×単価
予測PLの売上高は、SOMを分解した「接点を持てる顧客数×獲得率(成約率)×単価」で説明できる状態にしておきます。たとえば初年度に営業できる企業が300社、成約率20%、年間単価20万円なら、初年度の売上は300社×20%×20万円=1,200万円です(架空の例)。

上の図では、「SOM」の欄に初年度に接点を持てる顧客数(30万人)を置き、獲得率と単価を掛けて売上1.5億円を出しています。この金額が、そのまま予測PLの初年度売上と一致していることが条件です。
SOMは「何年目か」を明記する
SOMを示すときは、それが何年目の数字かを必ず書き添えます。1年目のSOMは初年度PLと営業・人員・広告の体制に、3年目のSOMは中期の成長戦略や投資回収の見通しに直結するためです。
年次が書かれていないと、PLの売上の伸び方とSOMが対応しているかを誰も確かめられません。1年目・3年目・5年目のように年次ごとのSOMを置き、PLの各年の売上と並べて示すと、対応関係が一目で分かります。
整合性を確かめる3つの問い
予測PLを仕上げる前に、次の3点を確かめます。いずれかに答えられない場合は、SOMかPLのどちらかの前提を見直します。
- 顧客数から計算した売上と、PLの売上目標は同じか
- 獲得率は、営業人員やチャネルの能力から見て現実的か
- 広告費や人件費などのコストは、SOMの規模に見合っているか
1社あたりの採算まで踏み込んで確かめる場合は、「ユニットエコノミクスとは」で解説しているLTV(顧客生涯価値)とCAC(顧客獲得コスト)の考え方が役立ちます。
TAM SAM SOMの算出でよくある失敗
現場で繰り返し起きるつまずきは、数字をきれいに作ること自体が目的になったときに生じます。代表的な3つを挙げます。
TAMを大きく見せようとする
最も多いのは、市場の魅力を強調したいあまり、関連の薄い領域までTAMに含めてしまう失敗です。TAMは「夢の大きさ」ではなく「論理的にねらえる最大値」です。範囲を広げるなら、なぜそこまで届くのかを根拠とセットで示します。
SOMを「SAMの数%」と感覚で置く
TAMとSAMは丁寧に積んだのに、SOMだけを「SAMの1%」のように割合で置いてしまうケースも目立ちます。SOMは売上目標に直結するだけに、根拠の薄さが最も目立つ部分です。競合の状況、営業の人数、参入の時期といった現実の制約から、なぜその獲得率なのかを説明できるようにします。
一度作って更新しない
市場規模は、事業環境や顧客の理解が進めば変わります。最初の数値は、まだ顧客が見えきっていない段階での仮説にすぎません。

たとえば「40代以上の全員」を想定していた健康アプリが、顧客インタビューで「健康意識の高い30代」に関心が集まると分かれば、SOMは置き直しです。仮説・実行・検証・見直しを回し、そのたびにSOMとPLを更新していきます。
事業計画書・社内提案での見せ方
算出した3つの数字は、見せ方次第で伝わり方が大きく変わります。決裁者が短い時間で妥当性を判断できる形に整えることが大切です。
同心円図に金額・条件・出典を並べる
TAM・SAM・SOMは、外側からTAM・SAM・SOMの順に並べた同心円で示すのが一般的です。各円に金額だけでなく、絞り込みの条件と出典を書き添えると、決裁者はどの前提を疑えばよいかがすぐに分かります。出典のない大きな数字は、かえって警戒されます。
事業計画書の中では、TAM・SAM・SOMは「市場分析」と「売上計画」をつなぐ位置に置きます。市場の大きさから始まり、売上目標に着地する流れを作ると、計画書全体が一本の線でつながります。具体的な構成は「事業計画書の書き方」で紹介しています。
ほかのフレームワークと組み合わせる
リーンキャンバスの「顧客セグメント」や「収益の流れ」の欄にTAM・SAM・SOMの考え方を重ねると、誰にどれだけの規模で売るのかが具体的になります。書き方は「リーンキャンバスの書き方」を、段階ごとの使い分けは「新規事業フレームワーク一覧」をご覧ください。
All Bridgeでは、新規事業の初期段階で「その市場は魅力的か」を確かめる考え方として、TAM・SAM・SOMを取り入れています。自社の強みと顧客の課題を結びつける進め方は「SCF(Strategy Customer Fit)」で紹介しています。アイデアから事業化までの全体像は「新規事業の進め方」にまとめています。
TAM SAM SOMに関するよくある質問
SAMとSOMの違いは何ですか?
SAMは「自社の製品と販路で届けられる市場」、SOMは「そのうち現実に獲得できる市場」です。SAMは届く範囲の顧客がすべて自社を選んだ場合の規模で、競合の存在は考えません。SOMは、競合の状況や自社の営業力、参入の時期を踏まえて見込む規模で、売上目標に最も近い数字になります。
SOMはSAMの何%くらいが妥当ですか?
一律の正解はありません。SAMに対するSOMの比率は、競合の強さ、参入の時期、自社の営業体制によって大きく変わります。割合を先に決めるのではなく、接点を持てる顧客数と成約率から積み上げ、その結果としての比率を確かめる順序にすると、根拠を説明しやすくなります。
市場規模のデータはどこで手に入りますか?
企業数や事業所数は、総務省・経済産業省の「経済センサス‐活動調査」やe-Statで調べられます。業界ごとの規模は、業界団体の統計や民間の調査会社のレポートが主な情報源です。上場企業が開示している「事業計画及び成長可能性に関する事項」も、市場規模の示し方の参考になります。いずれも出典と時点を明記して使います。
PAMとは何ですか?
PAM(Potential Available Market)は、TAMのさらに外側に、将来ねらいうる潜在的な市場として置かれることがある指標です。ただし呼び方や範囲は資料によって異なり、定まった定義はありません。社内資料で使う場合は、どの範囲を指すのかを本文で定義してから示すと誤解を防げます。
まとめ
TAM・SAM・SOMは、市場規模を「理論上の最大」「届けられる範囲」「現実に獲得できる範囲」の3段階で示す考え方です。トップダウンとボトムアップの両方で算出して突き合わせ、出典と前提を明記することで、数字は社内で通用するものになります。
そのうえで最も大切なのは、SOMを年次つきで示し、予測PLの売上と矛盾なくつなぐことです。最初の数字は仮説と割り切り、顧客の反応を得るたびに更新していけば、市場規模は「語れる夢」から「実行できる計画」の根拠へと変わります。
市場規模の算出や事業計画の組み立てで迷われている場合は、All Bridgeにご相談ください。構想段階から事業化まで、社内新規事業の進め方をご一緒に整理します。お問い合わせはこちら