技術シーズの事業化の進め方|作る前に顧客を確かめる手順と基準

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

技術シーズの事業化は、試作や設備投資の前に「誰の、どの課題を解くのか」を顧客に確かめ、確かめたかどうかを予算を出す条件にすると進みやすくなります。作ってから売り先を探す順番では、仕様と予算が先に固まり、顧客の声で直す余地がほとんど残らないためです。

この記事は新規事業制度を決める立場の方向けです。技術はあるのに新規事業につながっていないと感じている事業部長、研究開発部長、取締役の方に向けて、用途探索の手順と、決裁者が置くべき判断基準を整理します。

本記事は、連載「新規事業が止まる9つの構造」の8回目です。連載では、新規事業が止まる原因を、①何を目指すか決まっていない、②経営の本気と現場がずれる、③既存事業の物差しで評価する、④優秀な人が来ない・兼務で回らない、⑤既存事業部が協力しない、⑥承認・調整で力尽きる、⑦型が無く個人任せ、⑧顧客を確かめずに作る、⑨関門が事業化につながらない、の9つの構造に分けて扱っています。いずれも担当者の努力不足ではなく、制度や進め方の側で手当てできるものです。今回は⑧「顧客を確かめずに作る」を取り上げます。

技術シーズの事業化が止まる典型|「作ってから売り先を探す」順番

技術シーズの事業化が止まる原因は、技術の水準よりも、進める順番にあることが少なくありません。まず言葉の意味をそろえたうえで、よく見られる止まり方を確認します。

技術シーズ・用途開発・プロダクトアウトとは

技術シーズとは、自社が持つ技術・素材・製法・ノウハウのうち、新しい事業の種になり得るものを指します。研究開発の成果や特許だけでなく、量産で培った加工精度や品質管理の仕組みも含まれます。用途開発(用途探索とも呼ばれます)とは、その技術が役立つ先、つまり使い道と使い手を探す取り組みです。

プロダクトアウトとは、作り手が持つ技術や作りたいものを起点に製品を企画する進め方です。反対に、顧客の課題を起点にする進め方はマーケットインと呼ばれます。技術を起点に始めること自体は製造業の強みであり、問題になるのは、どこかで顧客の課題とつなぐ工程が抜けてしまうことです。

止まる順番:試作、展示会、売り先探し

技術起点の新規事業でよく見られるのは、試作品を作り、展示会に出し、反応のあった会社に提案して回るという順番です。この順番では、売り先を探し始めた時点で、すでに仕様と予算の大半が決まっています。

その結果、「面白い技術ですね」という反応は得られても、購入や共同開発の話に進まない状態が続きます。担当者は改良を重ねますが、そもそも誰の課題を解く製品なのかが定まっていないため、改良の方向も定まりません。技術の水準が高い会社ほど改良で解決しようとする力が働き、顧客に聞きに行く工程が後回しになりやすい点にも注意が必要です。

論点は「作る」と「確かめる」の順番

仕様が固まらない段階で試作品を外に出し、顧客の反応をもとに改良を繰り返す。技術起点の新規事業では、この進め方よりも、仕様を固めてから外に出す進め方のほうがよく見られます。仕様が固まった後では、顧客の反応を受けて直せる範囲は限られます。

技術シーズの事業化では、まず「作る」と「確かめる」の順番を入れ替えることが、最初の論点になります。

顧客を確かめずに作ると何が起きるか|試作・設備・特許に先にお金が出る構造

顧客を確かめる前に作り始めると、お金と時間が後戻りしにくい形で先に出ていきます。決裁者の側から見ると、これは「まだ確かめていない仮説に、大きな投資を承認している」状態です。ここでは、その構造を3つに分けて見ていきます。

後戻りしにくい支出が先に積み上がる

試作の金型、評価のための設備、量産を見越した設備、特許の出願と維持。技術起点の事業化では、こうした支出が早い段階から発生します。いずれも、途中で用途が変わると使い回しにくいものです。

しかも、一度出したお金は続ける理由にもなります。「ここまで投資したのだから」という判断が働き、用途が合わないと分かっても方向を変えにくくなります。支出の順番が、撤退や方向転換の判断まで縛ってしまう構造です。

仕様が技術の都合で決まる

顧客の声を聞く前に作ると、仕様は「技術的にできること」「自社が得意なこと」で決まります。性能を高めるほど価格も上がり、顧客が求める水準を超えた、使われない機能を抱えた製品になることがあります。

反対に、顧客にとって欠かせない条件が抜け落ちることもあります。たとえば既存設備との相性、保守の体制、社内の調達手続きに乗るかどうかといった条件です。これらは技術の側からは見えにくく、顧客に聞いて初めて分かることがほとんどです。

「良い技術なのに売れない」が担当者の問題にされる

売れない理由が順番にあるにもかかわらず、担当者の営業力や熱意の問題として扱われることがあります。すると担当者は、さらなる改良や提案先の追加で挽回しようとし、支出と時間がもう一段積み上がります。

しかし、原因が構造にある以上、担当者を替えても同じことが繰り返されます。手当てすべきなのは人ではなく、確かめる工程を予算の前に置くという進め方そのものです。

用途探索の進め方|技術を「誰の何の課題を解くか」に言い換える4つの手順

用途探索は、技術を顧客の言葉に言い換えていく作業です。ここでは、試作や設備投資の前に行う4つの手順を紹介します。どの手順も、大きな予算をかけずに社内で始められます。

手順1:技術を「機能」で言い換える

最初に、自社の技術を「何ができるか」という機能の言葉で表します。量産やコストダウンの強みは、製品を作るための条件であって、顧客が求める機能ではありません。技術を起点に事業テーマを探すには、技術を機能の面から見る必要があります。

たとえば「高品質な部品を安定して量産できる」は作るための条件ですが、「液体を細かく正確な量で送り出せる」と言い換えると機能になります。機能の言葉で表すと、今の製品分野の外にも、使い道が見えやすくなります。

手順2:機能が効く場面と使い手を書き出す

機能の言葉ができたら、その機能が役立ちそうな業界、現場、作業を広く書き出します。この段階では絞り込まず、研究開発だけでなく営業、保守、調達の担当者にも聞くと、技術者だけでは思いつかない用途が出てきます。

書き出した候補ごとに、「その現場で誰が、どんな作業で困っているか」を一文で書きます。使い手を人と作業の言葉で書けない候補は、まだ用途とは呼べません。この一文が書けるかどうかが、次の手順に進める目安になります。

手順3:「誰の何の課題か」を2〜3件に絞る

候補を、課題の深さ、自社の技術でなければ解きにくい度合い、既存事業とのつながりの3点でざっと比べ、確かめに行く対象を2〜3件に絞ります。最初から1件に決めると、外れたときに振り出しに戻ってしまいます。

絞った候補は「課題仮説」として書き出します。誰が、どの場面で、何に困っていて、今はどう対処しているか。この4点がそろうと、顧客に何を聞けばよいかがはっきりします。

手順4:確かめる順番を決める

最後に、確かめる順番を決めます。まず課題が本当にあるかを確かめ(課題検証)、次に自社の解き方が受け入れられるかを確かめます(ソリューション検証)。この順番を逆にすると、解き方への感想ばかりが集まり、課題そのものの有無が分からないままになります。2つの違いは課題検証とソリューション検証の違いで詳しく解説しています。

段階ごとの確かめ方と、続けるか止めるかの基準は、顧客検証の方法|5つの段階で確かめる順番と進退を決める判断基準で整理しています。担当者に手順を渡すときは、あわせて共有すると進めやすくなります。

作る前に確かめること|顧客インタビュー・仮の提案書・小さな試作の使い分け

作る前に確かめる手段は、大きく3つあります。顧客インタビュー、仮の提案書、小さな試作です。費用の小さい順に使い、前の段階で確かめられたことだけを次の段階へ進めるのが基本です。

顧客インタビュー:課題があるかを確かめる

最初に使うのは顧客インタビューです。技術の説明はほとんどせず、相手の業務の流れ、困りごと、今の対処方法、それにかけている費用や時間を聞きます。聞くべきなのは「あったら使いますか」という意向ではなく、「今どうしているか」という事実です。

1つの用途につき複数の会社に、できれば立場の違う人、たとえば現場の担当者と購入を決める人の両方に聞きます。質問の作り方や記録の残し方は顧客インタビューの実施方法を参考にしてください。

仮の提案書:買う理由があるかを確かめる

課題が確かめられたら、製品ができたと仮定した1〜2枚の提案書を作り、価格の目安や導入の条件も添えて見せます。ここで確かめたいのは、相手が予算を取る理由を持っているか、そして社内で誰が決めるのかです。

反応は「検討したい」という言葉だけで判断せず、次の打ち合わせの設定、評価用サンプルの依頼、条件のすり合わせなど、相手が手間をかけてくれるかどうかで見ます。手間をかけてくれる相手ほど、課題が切実である可能性が高いと考えられます。

小さな試作:使えるかを確かめる

試作に進むのは、課題と買う理由が確かめられてからです。最初の試作は量産を前提にせず、顧客が最も気にする一点だけを確かめられる最小限のものにします。忠実度の選び方はプロトタイプの作り方で解説しています。

顧客の現場で使ってもらう段階に入ったら、PoC(概念実証)や実証実験として計画を立てます。ただし、目的や評価の基準を決めずに始めると、検証が終わっても次に進めない「PoC止まり」になりがちです。進め方はPoCとは?新規事業での進め方と失敗しないコツと実証実験の進め方|計画・実施・評価の実務とPoC止まりの防ぎ方にまとめています。

決裁者が決めること|「顧客を確かめたか」を予算の関門にする判断表

ここまでの手順を現場の心がけに任せると、忙しい時期には真っ先に省かれます。確かめる工程を守らせるには、それを予算の出し方として制度に組み込むことが、決裁者の役割になります。

確かめる前に、作る予算を出さない

決裁者が最初に決めるべきなのは、「顧客を確かめる前には、試作・設備・量産の予算を出さない」というルールです。その代わりに、インタビューや仮の提案書づくりに使う少額の予算と活動時間を、先に出します。

このルールがあると、現場には確かめる工程を飛ばす理由がなくなります。同時に、決裁者は「何を確かめたか」を見れば次の予算を判断できるようになり、技術の説明だけで判断を迫られる場面が減ります。

段階ごとの判断表

予算の関門は、段階ごとに「確かめること」と「次の予算を出す目安」を一枚にまとめておくと運用しやすくなります。以下は一つの例です。

段階確かめること次の予算を出す目安次に出す予算の例
1 用途探索技術の機能と、課題仮説2〜3件使い手を人と作業の言葉で書けているインタビューの時間・旅費
2 課題検証課題が本当にあるか複数の会社で同じ困りごとと今の対処が確かめられた仮の提案書の作成
3 買う理由の検証予算を取る理由と、決める人評価の依頼や次の打ち合わせなど、相手が手間をかけた小さな試作
4 使えるかの検証顧客の現場で使えるか事前に決めた評価基準を満たし、購入の条件が見えた実証実験・設備投資の検討

件数や金額の目安は、技術や業界によって変わるため、自社で決めます。大切なのは、各段階を通る条件を事前に書いておくことです。段階ごとに投資を判断する考え方はステージゲート法とはでも解説しています。

撤退と方向転換も同じ表で決める

確かめた結果、課題が見つからなかった場合は、用途を変えるか見送ります。これを失敗として扱わず、予算が少ないうちに分かった成果として評価することが重要です。

判断表には、「用途を変えて段階1に戻る」「見送る」の条件も書き添えておきます。止める条件が先に決まっていれば、担当者は外れを早く報告でき、決裁者も感情に引きずられずに判断できます。

技術起点で事業化を続ける会社の体制|研究開発と事業部の受け渡し

判断表を作っても、研究開発と事業部の間で情報が途切れると、確かめる工程は回りません。最後に、技術起点の事業化を続けるための体制と、実際の取り組みの例を紹介します。

研究開発の担当者が顧客に会える道をつくる

研究開発の担当者が顧客と直接話す機会がない会社では、顧客の声は営業や事業部を通じた伝聞になります。伝聞では、技術者が知りたい使い方の細部や、困りごとの背景が抜け落ちがちです。

決裁者は、研究開発の担当者が顧客インタビューに同席できるよう、事業部や営業との協力の取り決めを用意します。誰が顧客を紹介し、誰が同席し、記録をどこに残すかを決めておくだけでも、顧客に会える回数は変わります。

受け渡しの時点と持ち物を決める

研究開発から事業部へ渡す時点を、「技術ができたとき」ではなく、「顧客の課題と買う理由が確かめられたとき」に置きます。渡すときは、課題仮説、インタビューの記録、仮の提案書への反応をそろえて渡します。

受け取る側の事業部にとっても、顧客の声がそろっていれば、自部門の顧客や販路とつなげるかどうかを判断しやすくなります。受け渡しの持ち物を決めることは、事業部の協力を引き出す手だてにもなります。

事例:自社の強みを起点に、顧客理解を深めながら進めた取り組み

All Bridgeが伴走支援を行ったマックス株式会社様の事例では、新規事業推進室のメンバーが「自社の強みを起点に事業を構想すること」などを軸に、アイデア探索・ユーザー理解・MVP(実用最小限の製品)構築・社内外との調整を2チーム体制で進めました。自社の強みの棚卸しでは各事業へのヒアリングを重ね、技術力、製造プロセス、品質へのこだわりなどを掘り起こしています。

参加された髙橋様は「今回の取り組みを通じて社内ネットワークが広がり、ヒアリングを重ねる中で顧客理解も深まりました。」と振り返っています。強みの棚卸しと顧客理解を並行させ、社外での実証機会の創出へと進んだこの流れは、技術起点でも顧客を確かめながら進める一つの形といえます。

よくある質問

技術シーズの事業化とプロダクトアウトの新規事業は何が違いますか

技術シーズの事業化は、自社の技術を起点に新しい事業をつくる取り組み全体を指します。プロダクトアウトは、その中でも作り手の発想で製品を企画する進め方を指す言葉です。技術を起点にすること自体に問題はなく、違いを生むのは、作る前に顧客の課題とつなぐ工程があるかどうかです。技術起点で始め、試作の前に顧客を確かめる進め方であれば、プロダクトアウトの弱点を補えます。

用途探索にはどれくらいの期間がかかりますか

技術の性質や対象とする業界によって大きく変わるため、一律の目安はありません。重要なのは、期間を先に区切ることです。「この四半期で、2つの用途について決めた数の会社に話を聞く」のように期限と件数を決め、期間の終わりに続けるか見送るかを判断します。期限がないと、確かめる作業は通常業務に押されて止まりがちです。

顧客インタビューで技術の情報が漏れないか心配です

作る前の段階のインタビューでは、技術の中身を説明する必要はほとんどありません。聞くのは相手の業務の流れや困りごとであり、自社の技術については「こういうことができるとしたら」という機能の水準で伝えれば足ります。詳しい説明が必要になった場合は秘密保持契約を結んでから進め、社外に話してよい範囲は知的財産の担当部門と事前に決めておきます。

まとめ

技術シーズの事業化が止まる大きな理由は、技術の優劣ではなく「作ってから売り先を探す」という順番にあります。試作や設備にお金を出す前に、技術を機能の言葉で言い換え、「誰の、何の課題か」を2〜3件に絞り、顧客インタビューや仮の提案書で確かめることが出発点です。決裁者は「顧客を確かめたか」を予算の関門として判断表に書き、研究開発と事業部の受け渡しの時点と持ち物を決めておくことで、確かめる工程を仕組みとして守れます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
↑
新規事業創出ワークショップ
自社の強みから事業アイデアを1枚に。毎週水曜 11:00・60分・オンライン・参加無料
開催日を選ぶ →