新規事業で経営層がやるべきこと|本気が現場に伝わらない理由

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新規事業で経営層がやるべきことは、方針を語ることよりも、時間・予算・人を割り当て、続けるか止めるかの判断を自分で持つことです。現場は経営の発言よりも、何にどれだけの資源が割り当てられ、誰が判断を引き受けているかを見て、本気の度合いを読み取るためです。

この記事は新規事業制度を決める立場の方向けです。「新規事業は重要だ」と繰り返し伝えているのに現場が動かない、と感じている取締役や社長室の方に向けて、経営と現場がずれる構造と、経営層が自分で決めるべきことを整理します。

本記事は、連載「新規事業が止まる9つの構造」の2回目です。連載では、新規事業が止まる原因を、①何を目指すか決まっていない、②経営の本気と現場がずれる、③既存事業の物差しで評価する、④優秀な人が来ない・兼務で回らない、⑤既存事業部が協力しない、⑥承認・調整で力尽きる、⑦型が無く個人任せ、⑧顧客を確かめずに作る、⑨関門が事業化につながらない、の9つの構造に分けて扱っています。いずれも担当者の努力不足ではなく、制度や進め方の側で手当てできるものです。今回は②「経営の本気と現場がずれる」を取り上げます。

新規事業で経営層がやるべきこと|「本気」は発言ではなく割当で伝わる

経営層が新規事業に本気であることは、多くの会社で言葉としては伝えられています。それでも現場との間にずれが残るのは、伝え方の問題よりも、言葉と資源の割当が一致していないことに原因がある場合が少なくありません。まず役割の範囲を定めたうえで、ずれがどこで生まれるかを確認します。

経営層の役割とは:方向・資源・判断の3つを持つこと

新規事業における経営層の役割は、大きく3つに分けられます。どの領域で何を目指すかという方向を示すこと、時間・予算・人という資源を割り当てること、そして続けるか止めるかを判断することです。

このうち、アイデアの中身や顧客の検証は現場に任せられます。一方で、資源の割当と、続ける・止めるの判断は、現場の権限では決められません。経営層にしかできないのはこの2つであり、ここが空いていると、現場はどれほど意欲があっても先へ進めなくなります。

戦略としての位置づけは伝わっても、中身は届いていない

新規事業を重要な経営戦略として位置づけ、そのことを社内に伝えている会社は少なくありません。一方で、新規事業の内容や目標までが全社で共有されているとは限りません。

現場の担当者も、経営の関与が弱いことを一番の課題とは捉えていない場合があります。経営の位置づけ自体は伝わっていても、その中身が全社に届いていない可能性があります。ずれは「経営が関わっていない」ことよりも、「関わり方が現場の動きにつながっていない」ことにあると考えられます。

現場は「言葉」より「割当」を見ている

現場の担当者が経営の本気を測る材料は、発言の回数ではありません。自分の時間のうち何割を新規事業に使ってよいのか、予算はいつ、どの条件で出るのか、困ったときに判断してくれる役員は誰なのか。こうした具体的な割当です。

「重要だ」と言われながら、既存業務の量は変わらず、予算の出し方も決まっていない。この状態が続くと、現場は「言葉ほどには本気ではない」と受け取ります。経営層が最初に見直すべきなのは、伝え方よりも、割当の中身です。

本気が現場に伝わらない理由|経営と現場がずれる4つの構造

経営と現場のずれは、どちらかの意欲が足りないから起きるのではありません。多くは、組織の仕組みが既存事業に合わせてできていることから生まれます。ここでは、よく見られる4つの構造を取り上げます。組織全体の止まり方は新規事業が「進まない」理由でも整理しています。

発言と、時間・予算・人の割当が合っていない

最も多いのは、方針としては新規事業を掲げながら、担当者の既存業務を減らしていない状態です。兼務の担当者は、目の前の既存業務を優先せざるを得ず、新規事業は空いた時間で進めるものになります。

予算も同じです。年度の予算編成で枠が決まっていないと、担当者は必要なたびに既存事業と同じ手続きで申請することになり、そのたびに時間を失います。発言と割当の差が、現場には「本気の差」として映ります。

既存事業の会議と評価が先に来る

経営会議の議題や時間の多くが既存事業の数字で占められ、新規事業の報告が最後に短く扱われることがあります。担当者の評価も、既存事業と同じ物差しで行われがちです。

会議の順番や評価の基準は、経営が何を重視しているかを示す強い合図になります。新規事業の議論が後回しになる会議を見ている現場にとって、「新規事業が最優先だ」という言葉は届きにくくなります。

意思決定の段数が多いと感じているのは現場の側

意思決定までの段数の受け止め方は、立場によって大きく違います。決裁する経営者や役員が目にするのは最後の一段ですが、案を上げる課長や次長は、そこに至るまでに何度も説明と承認を重ねています。

経営層から見ると素早く決めているつもりでも、現場から見ると何段もの承認を経てようやく決まっている、ということが起こり得ます。経営が自分の体感で判断の速さを測ると、このずれには気づきにくくなります。

指名して任せきりにする

新規事業の担当者を、経営層がトップダウンで指名する会社は少なくありません。指名した経営層の思い入れは強くても、進め方の手順や目標、体制を整える組織としての手当てが後回しになると、事業はうまく進みにくくなります。

指名すること自体が問題なのではありません。指名した後に、進め方や目標、体制を整えないまま任せきりにすると、担当者は経営の期待だけを背負って動くことになります。

経営層が自分で決めること|時間・予算・人の割当

本気を割当で示すには、経営層が自分で決めなければならないことが3つあります。担当者の時間、予算の出し方、そして判断を引き受ける人です。いずれも、現場の工夫では代わりがききません。

時間:担当者の時間の割合と、経営自身の時間

兼務の担当者には、新規事業に使ってよい時間の割合を決めて伝えます。「週のうち何割」と数字で示し、その分の既存業務を誰が引き取るかまで、所属長と合意しておくことが大切です。専任と兼務の選び方は新規事業の組織・体制で解説しています。

あわせて、経営層自身が新規事業に使う時間も決めます。月に何時間をレビューや相談に充てるかを予定表に先に入れておくと、忙しい時期でも関与が途切れにくくなります。

予算:既存事業と別の枠で、段階ごとに出す

新規事業の予算は、既存事業の予算と同じ枠で競わせると、確実性の高い既存事業が優先されます。年度の初めに新規事業の枠を別に取り、その中で段階ごとに出す形にすると、担当者は手続きのたびに一から説明しなくて済みます。

段階ごとの配分の考え方は新規事業の予算の立て方にまとめています。枠を先に決めることは、経営が「この金額までは失敗も含めて引き受ける」と示すことでもあります。

人:担当役員を一人決め、決裁を一点に集めすぎない

新規事業について判断を引き受ける担当役員を、一人決めます。現場が困ったときに相談する相手と、最終的に判断する人がはっきりしていることが、経営の関与を現場から見える形にします。

ただし、すべてを社長が決める形がよいとは限りません。判断が社長一人に集まると、判断を待つ時間が延び、進め方の手順を整える役割も手薄になりがちです。適切な時期に、社長から担当役員や現場へ権限を委ねることも、経営の関与の一つです。

撤退判断を経営が持つ|続ける・止めるの基準を先に決める

経営層が手放してはいけないもう一つの役割が、撤退の判断です。続けるか止めるかを現場に任せると、止める判断は先送りされやすくなります。止める基準を先に決めておくことは、挑戦を後押しすることにもつながります。

撤退判断を現場に任せると起きること

担当者にとって、自分の事業を止めると言い出すことは、評価や立場への不安を伴います。そのため、見込みが薄いと感じていても、改善を続けるという判断に傾きがちです。

撤退の条件は、始める時点で書かれないまま進むことが少なくありません。基準がないまま進めると、止める判断は誰も下さず、予算と人が少しずつ流れ続けます。現場の意欲が高い会社ほど、この状態に気づきにくい点にも注意が必要です。

基準と見直しの時期を先に置く

撤退の基準は、始める時点で経営と現場が合意して書いておきます。期限、到達していたい指標、追加の投資を出す条件を一枚にまとめ、見直しの時期も決めておきます。

作り方の手順は新規事業の撤退基準の作り方、段階ごとの投資判断は新規事業の投資判断で解説しています。基準が先にあれば、経営は感情に引きずられず、現場は外れを早く報告できます。

止めた人を評価する

撤退を決めたとき、担当者の評価を下げると、次に手を挙げる人がいなくなります。予算が少ないうちに見込みの有無を確かめられたことを、一つの成果として扱うことが大切です。

止めた事業から得た顧客の知見や技術の使い道を、次の事業に引き継ぐ場を設けるのも経営の役割です。止め方が丁寧な会社ほど、現場は思い切って挑戦できると考えられます。

経営の関与の型を決める|月1回のレビューと権限委譲

経営層の関与は、気が向いたときに声をかける形では続きません。いつ、どの場で、何を見て、何を決めるのかを型として決めておくと、現場は経営の関与を予定として受け止められます。

関与の型の例

以下は一つの例です。頻度や場の名前は会社の規模や事業の段階に合わせて決めます。

場頻度経営が見ること経営が決めること
担当役員のレビュー月1回顧客について確かめたこと、つまずいている点次の1か月の優先順位、社内調整の引き受け
経営会議での報告四半期に1回段階ごとの進み具合と使った予算次の段階の予算、続けるか止めるか
年度の見直し年1回新規事業全体の配分と成果翌年度の予算の枠、探索する領域

大切なのは、それぞれの場で「経営が決めること」を先に書いておくことです。報告を聞くだけの場になると、現場は資料づくりに追われ、経営の関与がかえって負担になります。

任せる範囲を先に書く

経営が関与の型を持つことは、細部まで口を出すことではありません。どの金額、どの段階までは現場で決めてよいかを先に書き、その範囲では経営は判断に加わらないと決めておきます。

任せる範囲を書いておかないと、権限の委譲は進みません。範囲が決まっていなければ、現場は小さな判断まで経営に確かめるようになるためです。任せる範囲と、経営が判断する範囲の線引きは、新規事業の意思決定プロセスで詳しく整理しています。

経営と現場をつなぐ「翻訳役」を置く

経営の方針を現場の言葉に置き換え、現場の状況を経営に伝える役割を置くと、ずれは小さくなります。推進室や事務局、統括部門がこの役を担うことが多くあります。

All Bridgeが伴走支援を行った味の素株式会社様の事例では、社内新規事業の進め方をまとめたプレイブックをつくり、統括部が経営層と研究所・各事業部の間をつなぐ「ハブ」として機能し始めたと紹介されています。開発グループ長の広瀬様は「上にも横にも説明がしやすくなり、頼ってもらえるようになりました。」と振り返っています。共通の型があることで、経営と現場が同じものを見て話せるようになった一つの例といえます。

経営層の関与を点検する6つの問い

最後に、ここまでの内容を自社に当てはめるための問いをまとめます。経営会議や担当役員の打ち合わせで、一つずつ確かめてみてください。答えに詰まる問いがあれば、そこが経営と現場のずれが生まれている場所である可能性があります。

  • 担当者が新規事業に使ってよい時間の割合を、数字で伝えているか
  • 新規事業の予算の枠を、既存事業とは別に年度の初めに決めているか
  • 判断を引き受ける担当役員が一人に決まっていて、現場がその名前を知っているか
  • 撤退の基準と見直しの時期を、始める時点で書いているか
  • 月1回など、経営が関与する場と、そこで決めることが決まっているか
  • 現場で決めてよい範囲を、金額や段階で書いているか

よくある質問

経営層と新規事業リーダーの役割はどう違いますか

経営層の役割は、方向を示し、時間・予算・人を割り当て、続けるか止めるかを判断することです。新規事業リーダーの役割は、割り当てられた資源の中でチームを動かし、顧客を確かめながら事業を前に進めることです。経営層がリーダーの仕事に踏み込みすぎると現場の判断が遅れ、反対に資源の割当や撤退判断をリーダーに任せると、リーダーは自分の権限を超えた判断を背負うことになります。リーダー側の役割は新規事業リーダーの役割で解説しています。

新規事業の最終決裁者は社長がよいのですか

社長が関わること自体は、本気を示すうえで大きな意味があります。ただし、すべての判断を社長に集めると、判断を待つ時間が長くなり、意思決定の速さが落ちがちです。社長は方向と大きな配分を決め、日々の判断は担当役員と現場に委ねる、という分け方が一つの考え方です。

経営層が忙しく、毎月の時間が取れない場合はどうすればよいですか

まず、関与の頻度より、関与の中身を決めることを優先します。時間が限られる場合は、四半期に1回の経営会議で「続けるか、止めるか、次の予算をいくら出すか」だけを確実に決め、月々の相談は担当役員や推進室に任せる形が考えられます。その場合も、誰に何を任せたかを現場に明示しておくことが大切です。経営が関与しない月があっても、判断の窓口が決まっていれば現場は止まりません。

まとめ

新規事業で経営層がやるべきことは、本気を言葉で示すことではなく、時間・予算・人を割り当て、続けるか止めるかの判断を自分で引き受けることです。経営と現場のずれは、発言と割当の不一致、既存事業を優先する会議と評価、現場が感じる判断の段数、指名後の任せきりといった構造から生まれます。担当者の時間の割合、別枠の予算、判断を引き受ける担当役員、撤退の基準、関与の型と任せる範囲を経営が先に決めておくことで、本気は現場に伝わる形になります。

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