社内ビジコンが形骸化する理由|事業化につなげる審査後の関門設計

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社内ビジコンが形骸化する主な理由は、審査そのものではなく「審査の後」にあります。通過した案に予算・活動時間・担当役員・次の関門がつかなければ、優れた提案も発表会で止まります。

この記事は新規事業制度を決める立場の方向けです。新規事業提案制度(社内ビジコン)を運営・見直す新規事業推進室長、人事部長、担当役員の方に向けて、技術はあるのに提案が事業化まで進まない製造業などの企業を想定して書いています。

本記事は、連載「新規事業が止まる9つの構造」の9回目です。連載では、新規事業が止まる原因を、①何を目指すか決まっていない、②経営の本気と現場がずれる、③既存事業の物差しで評価する、④優秀な人が来ない・兼務で回らない、⑤既存事業部が協力しない、⑥承認・調整で力尽きる、⑦型が無く個人任せ、⑧顧客を確かめずに作る、⑨関門が事業化につながらない、の9つの構造に分けて扱っています。今回は⑨「関門が事業化につながらない」を取り上げます。

社内ビジコン・新規事業提案制度が形骸化する典型パターン

社内ビジコン(社内ビジネスコンテスト)とは、社員から新規事業の案を募り、審査を経て事業化の候補を選ぶ制度です。新規事業提案制度とも呼ばれます。形骸化とは、制度が続いているのに本来の目的である事業化が起きない状態を指します。

「開催すること」が目的になっている

最も多いのは、毎年の開催そのものが成果として数えられているパターンです。応募件数や参加者数は報告されても、通過した案がその後どうなったかは追われていません。開催の準備に事務局の力が注がれ、審査の後を担う人がいない状態です。通過案の進み具合を確かめる場も、報告を受ける役員も決まっていません。

この状態では、経営会議への報告も「今年は何件の応募がありました」で終わります。制度の目的が事業化なのか、人材育成なのか、風土づくりなのかが決まっていないため、何をもって成功とするかを誰も判断できません。その結果、制度を続けるか見直すかの議論も起きにくくなります。

受賞が「ゴール」になっている

二つ目は、受賞が提案者にとっての終点になっているパターンです。表彰と賞金は用意されていても、受賞後に事業化へ進むための予算や時間は約束されていません。提案者は元の業務に戻り、案は書類として保管されます。

受賞した案ほど周囲の期待が大きく、実際には進まないことへの失望も大きくなります。翌年の応募者は「受賞しても何も変わらない」と見て、応募をためらうようになります。こうして応募数が減り、制度がさらに形だけのものになっていきます。

形骸化の原因は「審査の後」にある|通過しても予算・時間・担当役員がつかない

形骸化の原因を審査の質に求めると、審査員を増やす、評価項目を細かくするといった手当てに向かいがちです。しかし事業化が止まる場所の多くは審査の後です。通過した案を誰が、どの予算で、どの時間を使って進めるかが決まっていないことが根本にあります。

予算と時間の「出どころ」が決まっていない

審査を通った案が次に進むには、顧客への聞き取りや試作のための小さな予算と、提案者が動くための業務時間が要ります。これらがどの部署の予算から、誰の承認で出るのかが制度に書かれていないと、通過のたびに個別の交渉が始まります。

交渉が始まると、案は既存事業と同じ稟議の流れに乗り、既存事業と同じ物差しで測られます。小さな検証のために大きな説明資料が求められ、提案者の熱が冷めていきます。予算と時間は、審査の前に枠として確保しておく必要があります。

担当役員と判断の場がない

もう一つの原因は、通過した案の後ろ盾となる担当役員がいないことです。役員が審査員として講評はしても、その後の進捗を見る責任は負っていない場合、案は組織の中で宙に浮きます。

審査までは制度として整っていても、審査の後の道筋が決まっていなければ、案は進みません。審査を制度の入口とし、その後の判断の場と責任者までを一続きで設計することが求められます。

審査基準は会社の目的から引く

審査後の関門を整える前に、審査基準も見直します。会社の目的とつながらない基準では、通過後の仕組みをどれほど整えても、経営から見て進める理由のない案が選ばれてしまうからです。

「良いアイデアか」ではなく「会社が進めたい案か」で測る

社内ビジコンの審査基準には、新規性、市場性、実現可能性、収益性といった項目がよく並びます。どれも大切ですが、それだけでは「一般的に良い案」は選べても「この会社が進めるべき案」は選べません。

審査基準の最初に置くべきなのは、会社が新規事業に何を求めているかです。どの領域で、いつまでに、どの規模を目指すのか。この目的と探索領域は経営が先に決めるもので、連載①「何を目指すか決まっていない」で扱います。目的が決まれば、それに合うかどうかが審査の第一の基準になります。

初期段階では「確かめたこと」を評価する

もう一つの見直し点は、提案段階で収益計画の精度を求めすぎないことです。初期の案に数年先の売上予測を求めると、根拠の薄い数字を作る競争になりがちです。

初期の審査では、誰のどんな課題を解くのか、その課題を実際の顧客に確かめたかを重く見るほうが、事業化につながる案を選びやすくなります。All Bridgeでは、会社の目的との適合を確かめるMSF(Mission Strategy Fit)から顧客の課題を確かめるCPF(Customer Problem Fit)へと、8つの段階で順に検証して進める考え方を「フィットジャーニー」と呼んでいます。審査基準も段階に合わせて変えると、提案者が次に確かめるべきことが明確になります。評価軸の具体的な作り方は「アイデアの絞り込み方法|評価軸の作り方と優先順位のつけ方」で解説しています。

審査後の関門の設計|ステージゲートとのつなぎ方

審査を通過した案を事業化へ運ぶには、審査を一度きりの選考ではなく、連続する関門の一つ目として位置づけることが有効です。

審査を「第一ゲート」として位置づける

ステージゲート法とは、新規事業や開発を複数の段階(ステージ)に分け、段階の間に置いた関門(ゲート)で進めるか止めるかを判断する仕組みです。仕組みや評価基準の作り方は「ステージゲート法とは|新規事業の投資判断を段階で管理する仕組みと基準」で解説しています。

社内ビジコンの審査をこの最初のゲートと見なすと、通過は「受賞」ではなく「次の段階へ進む許可」になります。許可には、次の段階の予算と期間、次のゲートで示すべきことをセットにします。たとえば「3か月で顧客10社に聞き取りを行い、課題の有無を報告する」といった形です。

次の関門と撤退条件を先に決める

次の関門を決めるときは、進む条件と同時に止める条件も決めておきます。止める条件がないと、成果が出ない案を誰も止められず、制度全体への信頼が下がります。

撤退条件は失敗を責めるためのものではなく、提案者を長期の膠着から守るためのものです。作り方は「新規事業の撤退基準の作り方|4つの手順と1枚にまとめる記入例」が参考になります。

審査後の関門を設計するときに決めておきたい項目は次のとおりです。

  • 次の段階の期間と、使える予算の上限
  • 次の関門で示すべき成果(確かめるべき問い)
  • 関門で判断する人(担当役員・推進室長など)
  • 止める条件と、止めた後の提案者の処遇

提案者の時間と評価をどう守るか

審査後の関門を整えても、提案者が動けなければ案は進みません。多くの社内ビジコンでは提案者が本業と兼務しており、時間と評価の扱いが事業化の成否を左右します。

兼務の時間を制度として保証する

提案者が本業の合間に活動する前提では、繁忙期が来るたびに新規事業の活動は後回しになります。上司の理解に頼る運用では、部署によって差が出て、提案者が上司に気をつかう構図も生まれます。

通過した案については、業務時間の何割を新規事業に充ててよいかを制度として定め、所属部署の上長にも通知しておくのが有効です。時間の割合を決めておくと、上長も業務の配分を見直しやすくなります。期間を区切り、次の関門の日付と合わせて通知すると、上長にとっても負担の見通しが立ちます。人材の確保と兼務の扱いは、連載④「優秀な人が来ない・兼務で回らない」でも詳しく扱います。

挑戦を評価に反映し、戻る先を約束する

提案者が本業の評価で不利になる仕組みでは、意欲のある人ほど応募を避けるようになります。成果だけで測る評価では、検証の結果として案を止めた人の取り組みは報われません。

人事部長が関わるべきなのはこの点です。新規事業の活動を評価の対象に含めること、撤退した場合も元の部署に戻れることを事前に約束しておくことが、応募の心理的な負担を下げます。評価の物差しについては連載③「既存事業の物差しで評価する」で整理しています。

2年目以降に応募が減らない制度運営|振り返りと次回への反映

社内ビジコンは、初回は話題になって応募が集まっても、回を重ねるごとに応募が減っていくことがあります。2年目以降も制度を生かし続けるには、毎回の振り返りと、その結果を次の回に反映する運営が欠かせません。

通過した案の「その後」を社内に見せる

応募が減る大きな理由は、通過した案のその後が社内から見えないことです。事業化まで進んだ案だけでなく、検証の結果止めた案についても、何を確かめ、何がわかったかを共有すると、制度が実際に動いていることが伝わります。

止めた案を学びとして紹介することには、もう一つの意味があります。止めることが失敗ではなく判断の一つだと社内に示せるため、次の提案者が挑戦しやすくなります。

振り返りの観点を決めておく

振り返りでは、応募件数だけでなく、各関門の通過率、関門ごとにかかった期間、止めた理由を記録しておきます。どの関門で案が止まりやすいかがわかれば、審査基準や支援の内容をどこで見直すべきかが見えてきます。

All Bridgeが支援した株式会社ユカリア様の事例では、新入社員向け新規事業創出プログラムで出したアイデアをもとに社内のビジネスコンテスト『EBIZ』へエントリーし、事業化を目指して動いている社員がいると紹介されています。育成の場と提案制度をつなぐことも、応募を絶やさない工夫です。アイデアを生む場は「アイデアソンとは|成果を残す企画・運営の手順と設計のポイント」、育成と事業化を組み合わせる仕組みは「社内アクセラレータープログラムとは|設計手順と運営でつまずかない要点」で扱っています。

制度を見直すときのチェックリスト(推進室長・人事部長向け)

ここまでの内容を、制度を見直す際のチェックリストとしてまとめます。すべてを一度に整える必要はありませんが、どこが空白になっているかを確かめることで、優先して手を入れる箇所が見えてきます。

目的と審査のチェック

まず、制度の目的と審査基準のつながりを確かめます。制度の目的が事業化なのか育成なのかが曖昧なままでは、審査員ごとに見る点がばらつき、通過した案への期待もそろいません。

  • 制度の目的(事業化・育成・風土づくり)の優先順位が文書で決まっている
  • 審査基準の第一項目が、会社の目的・探索領域との適合になっている
  • 初期段階では収益計画より「顧客の課題を確かめたか」を重く見ている

審査後と運営のチェック

次に、審査の後の仕組みを確かめます。ここが空白のままであれば、形骸化の原因が残っていると考えられます。

  • 通過した案の予算枠と活動時間の割合が、審査の前に決まっている
  • 通過した案ごとに担当役員と次の関門の日付が決まっている
  • 進む条件と止める条件が、関門ごとに書かれている
  • 提案者の評価と、撤退時に戻る先が人事制度で約束されている
  • 通過率・期間・止めた理由を記録し、次回の設計に反映している

味の素株式会社様の事例では、バイオ&ファインケミカル事業本部がAll Bridgeとともに「社内新規事業プレイブック」を作り上げ、ステージゲートの仕組みを「進捗報告や意思決定の基準共有」に使っていると紹介されています。制度の見直しを、個人の熱意や経験に頼らない、組織で共有できる型づくりとして進めることが大切です。

よくある質問

社内ビジコンの審査基準には何を入れるべきですか

最初に入れるべきなのは、会社が新規事業に求める目的と探索領域への適合です。そのうえで、誰のどんな課題を解くのか、その課題を顧客に確かめたかを重く見ます。初期から数年先の収益計画の精度を求めすぎず、後の関門ほど事業性の比重を上げていく設計が向いています。段階ごとに見る項目を変えておくと、審査員ごとの評価のばらつきも抑えられます。

社内ビジコンとステージゲート法はどう違いますか

社内ビジコンは、社員から案を募って候補を選ぶ「入口」の仕組みです。ステージゲート法は、選ばれた案を段階に分け、関門ごとに進めるか止めるかを判断する「進め方」の仕組みです。ビジコンの審査を最初の関門と位置づけ、通過時に予算・期間・次の関門を渡すと、両者を一続きの制度として運用できます。どちらか一方だけでは、入口で止まるか、入ってくる案が足りなくなります。

応募が年々減っています。何から見直せばよいですか

まず、通過した案のその後を社内に共有できているかを確かめてください。応募が減る背景には「受賞しても何も変わらない」という受け止めがあることが少なくありません。止めた案から何がわかったかも含めて伝えると、制度が動いていることが伝わります。あわせて、提案者の時間と評価が守られているかを人事部と確かめます。

まとめ

社内ビジコンの形骸化は、審査の質よりも「審査の後」の設計の不足から生まれます。会社の目的から審査基準を引き、審査を最初の関門として位置づけ、通過した案に予算・時間・担当役員・次の関門と撤退条件をセットで渡すこと。そして提案者の時間と評価を人事制度で守り、毎回の振り返りを次の回に反映すること。この一続きの設計が、提案を事業化へつなげる土台になります。まずはチェックリストで自社の制度の空白を確かめ、手当ての優先順位を決めることから始めてください。

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