新規事業の仕組み化|個人任せをやめて事業化を続ける推進室の型

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

新規事業の仕組み化とは、「どの段階で、何を作り、誰が、どの基準で判断し、どんな支援を受けられるか」を全社共通の型として決め、担当者が代わっても同じ道筋で事業化を進められる状態にすることです。型が無いと、進め方も判断も担当者と責任者の経験しだいになり、人が異動するたびに取り組みが止まります。

この記事は新規事業制度を決める立場の方向けです。新規事業推進室長や、推進室を所管する役員の方に向けて、個人任せの状態から抜け出すために推進室が全社共通にする4つの型と、その作り方を整理します。

本記事は、連載「新規事業が止まる9つの構造」の7回目です。連載では、新規事業が止まる原因を、①何を目指すか決まっていない、②経営の本気と現場がずれる、③既存事業の物差しで評価する、④優秀な人が来ない・兼務で回らない、⑤既存事業部が協力しない、⑥承認・調整で力尽きる、⑦型が無く個人任せ、⑧顧客を確かめずに作る、⑨関門が事業化につながらない、の9つの構造に分けて扱っています。いずれも担当者の努力不足ではなく、制度や進め方の側で手当てできるものです。今回は⑦「型が無く個人任せ」を取り上げます。

新規事業の「個人任せ」とは|型が無い組織で起きていること

新規事業が個人任せになっている組織では、熱意と経験のある人がいる間は案件が動き、その人が抜けると止まります。まず仕組み化という言葉の意味をそろえ、型が無いと何が起きるのかを確認します。

新規事業の仕組み化とは

本記事でいう新規事業の仕組み化とは、新規事業を進めるうえでの「段階」「各段階で作る成果物」「進むか止めるかを決める判断者と基準」「担当者が受けられる支援」の4点を、全社共通の型として決めておくことです。型は、推進室が持ち主となって運用し、毎年見直します。

ここで型にするのは、事業アイデアの中身ではありません。どの事業に取り組むかは案件ごとに違って構いません。共通にするのは、進め方と判断の仕方です。答えを決めるのではなく、答えを探す道筋をそろえる、と考えると分かりやすいでしょう。

型が無いと起きる3つのこと

型が無い組織でよく見られるのは、次の3つです。どれも担当者の能力の問題に見えますが、実際には進め方が人ごとに違うことから生まれています。

  • 案件ごとに進め方と報告の形が違い、どの案件が進んでいるのかを比べられない
  • 担当者の異動や退職で、検討の経緯や顧客の声が失われ、次の人が一からやり直す
  • 進むか止めるかが、その場の責任者の経験と好みで決まり、担当者が何を準備すればよいか分からない

3つ目は特に影響が大きく、判断の基準が見えないと、担当者は責任者の顔色をうかがいながら資料を作り直すことになります。結果として、顧客を確かめる時間よりも社内向けの説明に時間が使われます。

型が無いと、知見も組織に残らない

型が無いことの影響は、目の前の案件が止まることにとどまりません。進め方が人ごとに違うと、ある案件で得た学びを、次の案件で使える形に残せません。担当者が代わるたびに、同じ試行錯誤が繰り返されます。

進め方が型になっていないことと、知見が組織に残らないことは、同じ問題の表と裏といえます。進め方を型にすれば、案件を前に進める道筋がそろい、同時に知見を組織に残す受け皿もできます。

なぜ新規事業は個人任せになるのか|型が作られない3つの理由

多くの会社は、既存事業では業務の手順や品質の基準を細かく整えています。それでも新規事業だけが個人任せになりやすいのには理由があります。推進室長が向き合うべき3つの理由を見ていきます。

「新規事業に型は合わない」という思い込み

新規事業は正解のない仕事なので、手順を決めると発想が縛られる、という考え方は根強くあります。たしかに、アイデアの中身や顧客の選び方まで決めてしまえば、型は足かせになります。

しかし、型が決めるのは中身ではなく、進め方と判断の仕方です。顧客の課題を確かめてから解決策を作る、各段階の終わりに続けるか止めるかを決める、といった道筋は、どの案件にも共通します。この共通部分まで個人に任せてしまうことが、止まる原因になります。

挑戦が評価されにくく、熱意のある個人に頼る

新規事業は失敗の確率が高く、既存事業と同じ評価の仕組みでは、挑戦した人が報われにくくなります。その結果、引き受けるのは熱意のある一部の人に限られ、進め方もその人の経験に委ねられます。

この状態では、担当者は自分のやり方で成果を出すしかなく、知見を共有する理由も時間もありません。評価の問題は連載③で扱いますが、型づくりと評価の見直しはセットで考える必要があります。

推進室の役割が「案件の応援」で止まっている

新規事業推進室が置かれていても、その役割が個々の案件の相談相手や社内調整の代行にとどまっている会社は少なくありません。案件を応援することは大切ですが、それだけでは、推進室の担当者の経験もまた個人の中に閉じてしまいます。

推進室の役割を、案件の応援から「全社共通の進め方を設計し、運用し、改訂する」ことへ広げられるかどうかが、仕組み化の分かれ目です。事務局が担う機能の全体像は新規事業の事務局の役割で解説しています。

仕組み化と標準化・マニュアル化の違い|型で決めること・決めないこと

仕組み化という言葉は、業務の標準化やマニュアル化と同じ意味で使われることがあります。新規事業で型をつくるときは、この違いを押さえておかないと、手順書を作っただけで終わってしまいます。

標準化・マニュアル化との違い

業務の標準化とは、同じ作業を誰がやっても同じ品質になるように、手順と基準をそろえることです。マニュアル化は、その手順を文書にすることを指します。どちらも、正解の手順が分かっている繰り返し業務で力を発揮します。

新規事業の仕組み化は、正解の手順が分からない仕事を対象にします。そのため、作業の手順を細かく書くのではなく、「この段階を抜けるには何が分かっていればよいか」という出口の条件と、それを誰が判断するかを決めることが中心になります。

観点標準化・マニュアル化新規事業の仕組み化
対象正解の手順が分かっている繰り返し業務正解の分からない探索の仕事
決めること作業の手順と品質の基準段階・成果物・判断者・支援
決めないことほとんどない事業アイデアの中身と、確かめ方の細部
見直し手順に問題が出たとき毎年度、案件の振り返りをもとに

型で決めるのは「出口」と「判断」、決めないのは「中身」

型で決めるべきなのは、段階の区切り、各段階の出口で示す成果物、判断する人と基準、そして担当者が使える支援です。これらがそろうと、担当者は何を準備すればよいかが事前に分かり、判断する側も同じ物差しで案件を比べられます。

一方、事業のテーマ、顧客への聞き方、試作の作り方といった中身は、案件の担当者に任せます。中身まで縛ると、型は形式的な書類づくりに変わり、担当者は型を守ることを目的にしてしまいます。

フレームワーク集を配るだけでは型にならない

仕組み化の第一歩として、使える手法をまとめた資料を配る会社もあります。手法の一覧は担当者の助けになりますが、どの段階でどれを使い、その結果を誰がどう判断するかが決まっていなければ、使うかどうかは結局個人に任されます。

段階別の手法の選び方は新規事業フレームワーク一覧で整理しています。推進室が決めるのは、手法そのものではなく、手法の結果を受け取って判断する仕組みのほうです。

推進室が全社共通にする4つの型|段階・成果物・判断者・支援

ここからは、推進室が全社共通にする4つの型を具体的に見ていきます。4つは互いにつながっており、どれか1つだけを決めても機能しにくい点に注意が必要です。

段階の型:どこで区切るかをそろえる

最初に決めるのは、新規事業をいくつの段階に分け、どこで区切るかです。たとえば探索、課題検証、解決策検証、事業化のように、確かめる対象が変わる所で区切ります。段階の数そのものより、全案件で同じ区切りを使うことが重要です。

区切りがそろうと、経営会議で「いまどの段階の案件が何件あるか」を一覧で示せるようになります。段階の分け方と各段階の考え方は新規事業のフェーズとは、全体の流れは新規事業の進め方|アイデアから事業化までの6ステップ完全ガイドで解説しています。

成果物の型:段階の出口で何を見せるかを決める

次に、各段階の出口で何を示せば次へ進めるのかを、成果物として決めます。課題検証の出口なら「誰が、どの場面で、何に困っているか」をまとめた記録、解決策検証の出口なら顧客の反応と収支の見通し、といった具合です。

成果物の形式も共通にしておきます。提案資料の項目と枚数をそろえるだけでも、担当者は最初から何を集めればよいかが分かり、判断する側は案件どうしを比べやすくなります。

判断者の型:誰が、何を基準に決めるかを決める

3つ目は、各段階の出口で誰が判断し、何を基準に続ける・止める・方向を変えるを決めるかです。段階が進むほど投資額が大きくなるため、判断者の階層も上がるのが一般的です。基準は、成果物の型と対応させて書いておきます。

段階ごとに投資を判断する考え方はステージゲート法とは、判断の役割分担の決め方は新規事業の意思決定プロセスで詳しく扱っています。

支援の型:担当者が使える支援を決める

最後は、担当者が受けられる支援です。各段階で使える予算と活動時間、相談できる相手、使える手法や資料のひな型、外部の専門家に頼める範囲などを、案件ごとの交渉ではなく、あらかじめ決めておきます。

支援が決まっていないと、声の大きい担当者や社内に顔の利く担当者ほど資源を集め、そうでない案件は止まります。支援を型にすることは、案件の運不運をならすことでもあります。

型決めること例
段階何段階に分け、どこで区切るか探索/課題検証/解決策検証/事業化
成果物各段階の出口で示すもの課題の記録、顧客の反応、収支の見通し
判断者誰が、何を基準に決めるか推進室長/担当役員/経営会議
支援担当者が使える予算・時間・相談先段階ごとの予算枠、相談の場、資料のひな型

新規事業の仕組み化の進め方|推進室長が型をつくる5つの手順

4つの型は、最初から完成形を目指す必要はありません。今の進め方を出発点に初版を作り、使いながら直していく進め方が現実的です。推進室長が型をつくる手順を5つに分けて示します。

手順1・2:今の進め方を棚卸しし、初版を1枚にまとめる

手順1は、過去と現在の案件を振り返り、どこで止まったか、誰が何を基準に判断していたかを書き出すことです。うまく進んだ案件と止まった案件を並べると、共通して欠けていた段階や判断が見えてきます。

手順2では、その結果をもとに、段階・成果物・判断者・支援の4つを1枚の表にまとめます。最初は粗くて構いません。1枚に収めることで、経営層や事業部に説明しやすくなり、議論の土台ができます。

手順3・4:少数の案件で試し、判断者と基準を経営会議で決める

手順3では、初版の型を1〜2件の案件で試します。担当者が使いにくいと感じた所、判断する側が迷った所を記録しておき、全社に広げる前に直します。

手順4では、判断者と基準を経営会議で正式に決めます。判断者の型は推進室だけでは決められません。誰がどの段階を判断するかを経営層が引き受けて初めて、型は実際の意思決定の道具になります。

手順5:振り返りで毎年改訂する

手順5は、年度の終わりに案件を振り返り、型を改訂することです。止めた案件の経緯も、次の型を良くする材料になります。撤退した案件から学びを残す方法は新規事業の撤退後の振り返りで解説しています。

改訂を続けることで、型は推進室の担当者個人の経験ではなく、組織の知見を蓄える器になります。改訂の履歴を残しておけば、担当者が代わっても、なぜ今の型になったのかを引き継げます。

型を続ける体制と事例|個人の経験を組織に残す

型は作って配っただけでは定着しません。誰が型を持ち、どう浸透させるかまで決めておく必要があります。最後に、型を続ける体制と、実際に型を整えた取り組みの例を紹介します。

型の持ち主を決め、改訂を推進室の仕事にする

型の持ち主は推進室と明確に決め、運用と改訂を推進室の業務として位置づけます。持ち主が曖昧だと、型は作った人の異動とともに更新されなくなり、現場の実態と合わなくなっていきます。

推進室長は、型の運用状況を定期的に経営層へ報告します。どの段階に何件の案件があり、どこで止まりやすいかを型の言葉で示せれば、経営層も支援や判断の手を打ちやすくなります。

型が定着するまでの抵抗にどう向き合うか

新しい型を導入すると、「なぜこの順番なのか」「書類が増えるだけではないか」といった声が出るのは自然なことです。こうした声は、型の意図が伝わっていない所や、実際に使いにくい所を教えてくれる材料として扱います。

定着を急いで型を厳格に運用しすぎると、形だけ整えた資料が増えます。最初の1年は、型を守ったかどうかよりも、型に沿って判断できたかどうかを振り返るほうが、浸透は早まります。

事例:社内新規事業のプレイブックで、個人の経験を組織の仕組みへ

All Bridgeが伴走支援を行った味の素株式会社 バイオ&ファインケミカル事業本部の「NBD.com」では、社内新規事業の進め方をまとめた「プレイブック」と、ピッチ資料のフォーマットを整備しました。取り組みを立ち上げた髙木様は、以前の状況を「失敗の確率が高いがゆえに、その挑戦が評価では重視されにくい。だから、どうしても個人任せになってしまう。」と振り返っています。

プレイブックの導入後は、判断の仕方も変わりました。髙木様は「属人的な判断に頼らずに済むので、継承性ができたと思います。」と語り、広瀬様はピッチ資料の型について「こういう項目を10枚で、という型があると、『こうすればいい』『これがなきゃいけないんだな』というのが、やる時から分かる。」と話しています。詳しくは味の素株式会社様の事例をご覧ください。

よくある質問

型を決めると、自由な発想が失われませんか

型で決めるのは、段階の区切り、出口で示す成果物、判断者と基準、支援の4点であり、事業アイデアの中身や確かめ方の細部は担当者に任せます。むしろ、何を示せば次へ進めるかが事前に分かることで、担当者は社内向けの説明よりも顧客を確かめることに時間を使えるようになります。発想を縛っていると感じる所があれば、それは型が中身まで決めすぎている合図なので、改訂の対象にします。

案件が少ない会社でも、型は必要ですか

案件が年に数件しかない会社ほど、型の価値は大きいといえます。案件が少ないと、同じ人が続けて経験を積む機会も少なく、担当者が代わるたびに一からやり直すことになりやすいためです。最初から細かい規程を作る必要はなく、4つの型を1枚にまとめた初版を作り、次の案件で試すところから始めれば十分です。

型づくりは推進室だけで進められますか

段階と成果物の初版は推進室で作れますが、判断者と基準は経営層、支援のうち予算と活動時間は経営層と人事部、事業部から人や設備を借りる取り決めは事業部長の合意が要ります。推進室長は原案を作って関係者を集める役を担い、決めるべき人に決めてもらう段取りを組みます。組織体制の考え方は新規事業の組織・体制も参考になります。

まとめ

新規事業が個人任せになるのは、担当者の力量の問題ではなく、進め方と判断の仕方が組織として決まっていないことに原因があります。推進室長が全社共通にすべきなのは、段階・成果物・判断者・支援の4つの型です。型で決めるのは出口と判断であり、事業の中身は担当者に任せます。今の進め方を棚卸しして初版を1枚にまとめ、少数の案件で試し、判断者と基準を経営会議で決め、毎年改訂する。この流れを推進室の仕事として続けることで、個人の経験が組織に残り、担当者が代わっても事業化が続く状態に近づきます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
↑
新規事業創出ワークショップ
自社の強みから事業アイデアを1枚に。毎週水曜 11:00・60分・オンライン・参加無料
開催日を選ぶ →